第36話 ヤルミオンの森深部での戦い③
セフォリエナは無言のままカルレアータを睨みつける。
そのセフォリエナを絡めとる触手の先端が器用に動き、その身に纏うコートを剥ぎ取ろうとし始めた。
まず、足を覆う部分が大きくはだけさせられる。
セフォリエナがコートの下に身に着けていた、革製の赤いスカートが顕になる。その丈は膝上まででブーツとの間に素肌が見えていた。
触手はそのスカートの中に分け入って行く。
「くッ!」
セフォリエナは思わずといったように、苦痛の声をあげ、身をよじった。
カルレアータが右手の平を上に向ける。すると、そこに炎が浮かび上がった。カルレアータはそのままセフォリエナの方に近づきつつ、また告げた。
「最後はちゃんと焼いてあげるわね。今度こそ恐怖に打ち震えながら焼け死になさい。
炎が怖いのよね? アイラちゃん」
「黙れ!!」
セフォリエナが叫ぶ。そして更に続けた。
「貴様の好きになどさせん!!」
その言葉が響いた瞬間、ゴォという音と共に、セフォリエナの体が炎に包まれる。
そしてその炎は爆発的に周囲に広がった。
「な!」
カルレアータが驚きの声を上げ飛びずさる。その炎は彼女が意図したものではなかった。
タイミングからして、セフォリエナが何かをしたのだろう。
(自殺?)
カルレアータはそう考える。
辱めを受ける前に自ら命を断つ。そんなことを行ったのかと思ったのだ。
しかし、その考えが間違いだった事が瞬時に証明された。
燃え盛る炎の中から多数の茨が飛び出し、カルレアータを襲う。
「ッ!」
息を飲みつつも右手を振るって茨を払いのける。
しかし、四方の木々の幹からも次々と茨が飛び出してカルレアータに迫った。
それらを、或いは鉤爪で払いのけ、或いは粘液を生み出して動きを止める。
と、炎の中からセフォリエナの声が響いた。
「私は変わったと言っただろう。炎はもう怖くない。
今やそれは、私が支配するものだからだ」
カルレアータは背後に気配を感じた。
彼女が振り向いた先には、炎に包まれた甲冑を着た身の丈2mほどの存在が剣を構えていた。その剣が振り下ろされる。
カルレアータはその正体を看破した。
「
そう口にしながら、カルレアータは後ろに跳んで剣を避ける。
だが、顕現した
(上位精霊の多重顕現!!)
カルレアータは驚愕しつつも、素早い身のこなしでその攻撃を避ける。
上位精霊程度は、本来カルレアータにとって恐れるような存在ではない。だが、この場にあらわれた5体が放った剣戟は普通のものよりも遥かに鋭い。特殊な能力を持つ個体なのだろう。
その上、戒めを解いたセフォリエナが炎の中から姿を現した。こうなってはカルレアータの不利は否めない。
カルレアータは素早く呪文を詠唱し、古語魔法を発動させる事に成功した。
彼女の身が宙に浮く。
“高速飛行”の魔術だ。
カルレアータは強大な威力を誇る古語魔法をいくつも身に付けていた。
それこそ、今この場に隕石を落とす事も可能だ。
しかし、セフォリエナはそのような魔法をもってしても一撃で倒せる相手ではない。
その事を知っているカルレアータは、策が破れたことを悟って、攻撃よりも逃げを打ったのである。
その選択は間違いではなかった。しかし、遅すぎた。
カルレアータが逃れようと見上げたその頭上には、夥しい茨が蠢いていた。
「うッ!」
そのおぞましい光景に、カルレアータは思わずそんな声を上げ絶句した。
「縛せよ」
セフォリエナが告げる。
無数の茨がカルレアータめがけて豪雨のように降りかかる。
更に5体のムスペルから炎の投槍が放たれた。
カルレアータは、範囲攻撃に等しいそれを、今度こそ避けることが出来なかった。
茨に拘束され地に打ち据えられたカルレアータに、セフォリエナが歩み寄る。
その背後では再度茨に拘束された14体の過誤者が呻き声を上げていた。
地面を覆っていた泥土は乾いて土くれになっている。
「ようやく捕らえたぞ。カルレアータ」
セフォリエナがそう告げた。
「貴様ッ! 最初からこうするつもりで……」
「そうだ。貴様の術を逃れる方法は用意していた。
そして、私自身が囮になれば、貴様が動くだろうとも思っていた。
だが、相応の時間をかけなければ、確実に捕らえるだけの準備は出来なかったからな。調子に乗らせて時間を潰させる事にしたのだ。貴様を確実に滅するために」
「おのれ……」
カルレアータが呻く。
彼女は我が身を刺す茨の棘から毒液が流れ込み、自分がもはや満足に動く事ができなくなっていることに気付いていた。
カルレアータがセフォリエナをにらみ付けながら告げる。
「私を殺そうとも無駄なことだ。我らは何度でも貴様等を襲う。そして必ずや大願成就の時が来る。その時には私も還ってくるぞ」
「何度来ようと振り払うまでだ。とりあえず、貴様は今死ね」
そう言い切ったセフォリエナは、右手の槍を突き出し、カルレアータの左胸を突き刺した。
「かはッ!」
そんな声と共にカルレアータの口から血が漏れる。
セフォリエナは冷たい視線を動かさず、槍をそのまま振り上げ、カルレアータの肩まで切り裂いた。
傷口から大量の血が噴き出す。
すると見る間にカルレアータの体が干からび、ひび割れていく。そして更に灰となって周囲に散らばり始める。
カルレアータは激しい憎悪を込めた目でセフォリエナをにらみ続けていたが、ついにはその全てが灰となって消え散った。
その間に、14体の過誤者達も全て死に絶えていた。
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