第3話

 死んだらどうなるんだろう。生まれ変わったりするのかも知れない。生まれ変わるなら人以外が良い。ただ本能のままに生きられれば、どれだけ楽だろうか。それか天国や地獄があって、どちらかに行くのかも知れない。もしそうなら母さんは今頃天国にいるんだろう。女手一つで息子を育てて、その苦労が報われないのなら誰が天国に行けるんだろうか。できるなら母さんと同じところに行きたいと思うが俺はどうだろうか。少なくとも良い息子では無かった。親孝行は大学に入ってようやく始めたくらいだし、中学生の頃は万引きもして、他人に迷惑をかけていた。この二十数年良いことより悪いことの方が多くしてきた。でも、今のこの世よりも地獄にふさわしいところがあるのだろか。煩わしいことばかりで、良いことなんか一つもない。大人になれば、ただ言う通りに働くだけで面白味がない人生を歩むだけだ。それならば、どんな場所でも大丈夫な気がしてきた。そうして地元では心霊スポットとして有名な廃校の屋上に来た。

「これだけ高いならちゃんと死ねるな」

周りに人がいないことを確認して飛び降りようとしたとき、何故か旅行にまで着いてきていたあいつが話し始めた。

「そんなことするなよ。悲しむ奴が必ずいるよ。お前が生きてるだけで幸せな奴だっているんだ」

「お前もっと面白いこと言えよ。それっぽいこと言ってるだけで中身が全くないぞ」

そう言って俺は飛び降りた。結局あいつの正体は、俺が自分の中に作り出していて、たった一人の親友に押し付けていた世間の声だったんだろう。そして、俺みたいに自殺しようとするやつの中にもあいつは居て、そいつに言いくるめられたやつは地獄に戻されるんだろう。無責任に呼び戻して、無責任に生かす。そうしてまた苦しんでいく。そうなるくらいなら死んだ方がマシだと思えた奴がようやく死ねるんだ。幽霊になって、ここに自殺に来た奴がいたら背中を押してやろう。生きる権利も死ぬ権利も、誰しも平等に持つべきなんだと、そう思った。

 そして、地面に落下した。真夜中の廃校だから死体が見つかるのは相当後になるだろう。あまり迷惑のかける相手がいなくて良かった。もし居たら躊躇って落ちなかったかも知れない。もっと賢く生きていけば良かった。無駄に多くのことを考えずに、色んなことを諦めていたら、望むことが不幸になると知っていたら、楽しい人生を過ごしていたかもしれない。来世も人として生まれてしまったら、そう生きてみたい。

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地面 八瀬女 @gga

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