「ざんねんでまちがっている」、とあるコスプレ喫茶。今日は、痛い恋話で涙する。

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 このコスプレ喫茶は、今日もまちがっている。ゆがんだ恋の話を、盗み聞きしているからだよ。本当に、この2人を、何とかしてください。

 「客のもつ世界観を、良い感じに演出してあげたい!」

 そう、そう。

 それが、正しいコスプレ喫茶の気持ちだ。

 ここのコスプレ喫茶での彼の仕事は、ほぼほぼ、接客業。

 店員たちは、客の思い描く世界観に合ったような服を着たりして、その世界の住人のようなキャラになりきる。

 なりきったその姿で、店員たちが、客たちのいるテーブルを回ったりすれば、客たちは大満足。

 もっとも、中心になる店員は、男子のモナタ君。

 「女装が得意で趣味(男好きという意味ではない)」な君は、頼りにされていた。

 「執事様などの男性キャラが専用で接客する店」というわけではないが、女性への評判だって、良いほう。

 実際に、女性客も、たまに訪れていた。

 それにしたって、オタクな道は、複雑だ。

 彼は、今日店で、いつもとはちがうタイプの話を耳にすることになる。

 「ねえ?」

 「何?」

 女性客の話も、男性のものに負けずに興味深い。

 「痛い恋の告白話って、知ってる?」

 「痛い、恋の話?」

 「そう。最悪クラスの恋の告白って、どういうものなのかな?」

 ここで働く彼も、客のこういう話し合いが、きらいではなかった。

 「気持ちを伝える順序って、大切」

 女性客の話は、本当に、考えさせられる。

 「ふうん…。この話って、男にも応用できないか?」

 悩まされる話が、続く。

 「小さなころから知りあえていた 2人、 A君と Bさんがいたとします。 2人の男女の仲は、良い感じ。家族付き合いもあったほど、でした」

 で…。

 この関係が、劇的に、変わっていくことが起きたという。

 「彼らは、将来、結婚するだろうな」

 まわりからは、そこまで、期待がかけられていたらしいのに。

 男子 A君が、大人になって、女子 Bさんに告白されたとする。

 どう考えても、結ばれる展開だろう。

 が、そのとき A君は、 Bさんへの返事を保留。

 「ちょっと、考えさせてくれないか?」

 とか何とか言って、ごまかす。

 そうして、 A君は、 Bさんへの返事をストップさせたままで、何と、今度は、 Cさんという子に告白するというのだ。

 「そういうのって、おかしくない?」

 「勇気を出して、思いを伝えた女の子にたいして、フェアじゃないと思う」

 その話を聞いて、たしかになと思う、彼。

 もしも、 Cさんが A君の告白を断ったら、どうするのか?

  A君は、こんなことを考えていたんじゃないか?

 「 Cさんにふられたら、 Bさんのところにいけば良いさ。何でもないふりをして、この前に君からもらった告白、うれしかったんだって言ってあげる。そうして、お付き合いをはじめれば、良いじゃないか」

 そうか、そうか。

 女性客は、面白い話をしている。

 「…なるほどな。 Bさんが A君の計算を知ったら、怒るよなあ」

女性客からは、男性が考えつかないレベルの話が聞けることも、しばしばだ。

 そこで、だ…。

 「店長は、こういうタイプの男とか、どう思うだろう?」

 ふと、気になってきた。

 「店長!」

 「何かね、モナタ君?」

 「俺、店長のこと、好きなんです!」

 「…何だって?」

 「俺と、付きあってください!」

 やめろ。

 「…おい、おい。私には、妻も子もいるんだよ?」

 「それは、わかっています!どちらを取るのかと、聞いているんですよ!」

 「…」

 「泣かないでください、店長!」

 もう、やめな。

 ここのコスプレ喫茶は、今日も、まちがっている。




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