俺が××をやめた日
℘ほたる
第1話
俺は煙草を吸っている。
多分死ぬまで吸い続けるだろう。
人はみな、やめろと言うけれど俺は止めたりなんかしてやらない。
煙草は俺の生きる意味であり、希望だ。
今日も行きつけの店で1カートン買ってやった。
ガラム・スーリヤ。世界で一番タールが高い煙草だ。
通常のタバコの5倍タールが多く入っている毒みたいな煙草。
他の店ではこれは売っていない。
健康に悪影響だがなんだかで、数年前に廃止されたのだ。
だけど、ここでは売っている。
オーナーに頼み込みわざわざ海外から輸入させ、それを俺が高額で買うのだ。
俺だけの特注品だった。
そんな俺にも恋人が出来た。
どこを触っても細くて、柔らかくて、手を握ったりなんかしたらすぐに壊れちまいそうな女だった。
だけど、そいつは怒ると怖い。
般若みたいな似合わない顔をして、俺の煙草をいつも奪う。
「少しは控えてください!!」
金属がぶつかり合うような、高い声。怒声。
いつもはそれが嫌に思えるのに、なぜだかこの時だけは心地よく思えた。
お前は笑っていた方がいいのに、
ぷりぷりと怒るお前の顔が見たくて、俺は思わず顔を近づけた。そして。
ふぅー
煙を彼女の顔に吹きかける。
すると彼女は顔を赤くさせながらもっと怒って、そのまんま部屋を出ていってしまった。
俺はタバコの量をほんの少しだけ減らしてやった。
誰かが泣いている。
小さくて、猫の鳴き声みたいなか細い声だ。
彼女の高い声では無い。
俺のしゃがれ声でもない。
じゃあ誰のだ?
目の前にはふにゃふにゃした生き物がいる。
それはうんと小さくて、白くて、ミルクの匂いがする、かわいげのあるヤツだった。
俺が笑えばそいつも笑う。
俺が欠伸をすればそいつも欠伸をした。
「あなたたちって似てるわね」
「…どこがたべ」
小さくて柔いそいつは彼女に似ている気もした。
だけど、俺にも似ている。
大きなくりくりした目はあいつ。
鼻の形は俺。
よく泣くところはあいつ。
イタズラ好きなのは俺。
正真正銘、俺たち2人の子供だ。
よく笑い、よく泣く、少しだけ不細工な赤ん坊だった。
俺は手に握っている煙草の箱を見る。
中坊のころから吸っている煙草だった。
俺が中坊の時に、父親はガンで死んだ。
母親はもっと前に空の星になった。
気づけばずっと一人で生きていて、これからもそれが続く思っていた。
そう思っていたはずだった。
だけど。
こいつがいるなら、こいつらがいてくれるのであれば。
俺はまだ生きていてもいいのかもしれない。
今日俺は煙草を捨てた。
俺が××をやめた日 ℘ほたる @azumaya110206
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺が××をやめた日の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます