12-18.ぼくがなんとかしないといけない……のかな?

 激しい。

 あまりにも激しすぎる親子喧嘩だ。


(これは……ある意味……魔窟だよな)


 ギンフウの部下なら、絶対にこのような場面には遭遇したくないだろう。


 フロルなら「いやー。あまりの恐ろしさに、もう少しでチビリそうになったわー」とか言いそうだ。


 ……とにかく、文句なしにココは怖い。

 魔王城の方がはるかに安全だろう。


 黄金色に輝く炎はギンフウを焼きつくそうとするが、見えない壁に阻まれて彼を燃やすことはできない。

 そして、炎は消えることなく、いや、消しても再び燃え上がる。


 魔力と魔力がせめぎあい、膠着状態に突入してしまったようだ。

 一歩間違えば大爆発を起こしてしまう。


 抑えきれないギンフウの怒りがじわじわと漏れ出ているのだが、興奮して泣いているセイランは気づいていない。

 また、セイラン自身も己の感情を制御できず、膨大な魔力を持てあましていた。

 急激なステータスの成長に、精神が追いついていないのだ。


 できることなら、さっさとしっぽを巻いて逃げ出したいとフィリアは思った。


(もしかして、この状況って、ぼくがなんとかしないといけない……のかな?)


 フィリアは心の中で自身に問いかける。


 結界の中には、フィリア、ギンフウ、セイランの三人しかいない。

 何度確認しても、残念なことに三人しかいないのだ。


 少年は泣きやまない。

 彼の養父は沈黙したまま、微動だにしない。

 そして、結界で隔離されたこの空間は、時間の経過とともに、緊迫したものへと変化していく。 


(このままでは不味い……)


 セイランは子どもだ。

 まだ幼い。

 そして、ギンフウは大人げない。


 このままわけのわからない、魔法大爆発な親子喧嘩が続けば、この結界も無事ではすまされないだろう。

 この結界にもしものことがあれば、足元にある『帝国の護りと繁栄の要所』にどういう影響が及ぶのかわからない。


(これ以上、負債が増えたら、ぼくはどうしたらいいんだ! どう考えたって返済できない!)


 そうこうしているうちにも、炎を抑え込もうとする結界が、ギシギシと音をたてはじめる。


(け、結界が! どうしよう。どうしたらいいんだ!)


 泣いて、泣きじゃくっているセイランに業を煮やしたのか、ギンフウは呪文の詠唱を始めた。


(子ども相手に本気になってどうするつもりなんだ――!)


 力のこもった声と、ギンフウの身体から溢れ出る魔力の濃さに、フィリアは震えあがる。


 ギンフウが選んだ魔法は、こんな狭い空間で、あんな小さな子どもに向かって放ってよいものではない。


「やめてください!」


 フィリアは叫ぶと、次の瞬間には少年の元へと【跳躍】していた。


「なにぃ……」


 息子の前に出現したフィリアに驚き、ギンフウの呪文が中断する。

 

 フィリアは両手を懸命に伸ばし、泣きじゃくる小さな存在を、己の胸に抱き寄せた。


 炎の魔法を連発していた少年は、燃えるように熱い。

 少年自身が炎の塊のようだった。

 あまりの熱さにフィリアの口からうめき声が漏れる。


 ギンフウの「早く離れろ」という声が聞こえたが、フィリアはかまわず少年を抱きしめる。


 少年に触れた瞬間、セイランの混乱がそのままフィリアに伝わってくる。

 フィリアもまたセイランの混乱に巻き込まれる。


 不安定だった体内の魔力が、少年の魔力に掻き乱されて、制御できなくなる。

 セイランからほとばしる炎の熱に焼かれ、魔力の圧に身が引きちぎられそうになる。

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