12-10.たった今から、おまえはオレの所有物だ
「今回の件は、魔力相性のいい奴に出会ったときの対処方法をおまえらに教えていなかった、オレたち大人のミスだ」
尊大な男が素直に己の非を認めたことに、フィリアは内心で驚く。
「そして、誰ひとり、おまえとセイランの相性の良さを、正確に把握できていなかった。いや、確認するのを怠った。オレの認識の甘さが招いた結果だ」
「…………」
「ルースとフロルからオマエを救ってほしいという、嘆願も届いている。こいつからも、散々泣きつかれた」
ギンフウは淡々と言葉を続ける。
この部屋の結界が「ピキピキ」と音をたてて軋みはじめていた。
結界の異変を感じ取ったフィリアに怯えの表情が浮かぶ。
そろそろこの部屋も限界がきているようだ。
フィリアから漏れた魔力で、部屋の結界が内側から壊される前に、もっと深い場所に移動する必要がある。
が、その前に、ギンフウにはやらなければならないことがあった。
「嘆願があったからといって、おまえを無償で助けてやる義理や道理がオレにはない。わかるか?」
「はい。わかります」
「それ故、おまえからは、オレが納得できるだけの対価を、遠慮なく貰う」
否、とは言わせない迫力があり、フィリアは反射的に頷いていた。
「覚悟はできているようだな」
嬉しそうに嗤うギンフウのその姿は、極上の獲物を前に、食事を始める宣言をしているようであった。
「ルースとは話がついたようだが、もう一度、オレの前でおまえの望みを言ってみろ。おまえは、なぜ、皇帝ではなく、オレを選んだんだ?」
「ぼくは、エルトの側にいたいんです。エルトの側にいてもいいくらい、強くなりたい」
フィリアの言葉に、ギンフウの黄金色の瞳がすっと細くなる。
「面白いことを言うな。おまえには欲がないのか? おまえは、ただ側にいるだけで満足なのか? エルトを……セイランが欲しいとは言わないのか? 自分だけのモノにしたいとか?」
「あの子の所有者はもう決まっています」
迷いのないフィリアの告白に、ギンフウの表情が固まる。
「おまえは……それを変えたい……『そいつ』からセイランを奪いたいとは思わないのか?」
ギンフウは再度、問いかけるが、フィリアは不思議そうに首を傾げる。
「あの子が心から望めば、所有者は変わります。ぼくは奪うのではなく、護りたいだけです。ずっと側で護りたい。それ以上のことを求めることは、ボクにはできません」
「…………?」
「エルトは誰のものでもありません。誰のものになるのかは、エルト自身が決めることです。ぼくはエルトを理不尽から護りたいのです」
フィリアの真っ直ぐで奇妙な答えに、ギンフウは沈黙する。
魔力の相性がよい者にしかわからないことを、フィリアは感じとっているのだろうか。
ギンフウが視ることができなかった部分と関係があるのだろうか。
それを今ここで問い詰めたところで、フィリアからは納得できる答えを得ることはできないだろう。
フィリア自身もまだよくわかっておらず、感じたままのことを言っているだけだろう。
「ぼくの望みは、『エルトの側にいられる力が欲しい』です」
真剣な顔で訴えられる。
あまりの真剣さ、健気さに、ギンフウは言葉を失う。
(このいびつな純真は、陽の当たる世界で生きてきた者だからか? それとも、孤児院で育ったからか? いや、魔力の相性がよすぎる故の弊害か……)
心からの、純粋な願いである、ということが伝わってくる。そして、とても危うい存在だ。
だったら、自分はそれに応えるだけだ。
「おまえの願いはわかった。オレはおまえの望みを、オレの持てるすべての力を使って叶えてやろう。その代わり……」
ギンフウは立ち上がると、フィリアの手首を握る。
「たった今から、おまえはオレの所有物だ」
低い男の声がフィリアの耳元で囁かれ、世界が暗転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます