12-9.予想以上によいモノが転がり込んできたな

 フィリアは大きく頷いた。その拍子にポタポタと涙が床の上に落ちていく。


「本当は、【鑑定】魔法で済ませたかったんだが、おまえに抵抗されて失敗した。【鑑定・強】もだめだった。案の定、鑑定をはじめとする、色々な分野の抵抗レベルがありえないくらいに高くなっていたぞ」


 冒険者カードを閲覧するよりも、【鑑定】魔法よりも、この方法で魂を視るのが確実で、正確なことがわかるので手っ取り早い。

 冒険者カードでは知ることができない部分も、望めば視ることができる。


 だが、いくら効率的な手段とはいえ、失敗することも多い。さらに、視る方もだが、視られた方の精神的な負荷は非常に大きく、程度を間違えば魂の深部に傷を負わせる行為だ。


 ギンフウの顔に影が差す。


 フィリアが抵抗しないのをいいことに、少し視すぎたようだと反省する。

 

 視られたと悟った直後の『相手の傷ついた表情』を見るのは、何度体験しても慣れない。

 非道なことをしたと責められているようで、いたたまれなかった。

 実際に、相手の魂の深部を視ることは、人として褒められるような行為ではないので、当然の報いともいえる。


(一介の冒険者かと思っていたが、そうでもなさそうだな……随分と複雑な)


 口の中に残る錆の味と、セイランと瓜二つといってもよい魔力の味に、ギンフウの心が激しく揺さぶられる。


(これは……予想以上によいモノが転がり込んできたな)


 戻ってきたセイランの様子から、ある程度の予測はたてていたが、目の前の若者はギンフウが想像していた以上の成長を遂げていた。

 

 セイランが気に入るのも頷ける。


(帝国側に盗られる前に、こちら側に取り込むことができたのは僥倖だ。見つけ出したランフウとヤマセを褒めてやらねば)


 ステータスの状況は把握した。だが、ギンフウの能力をもってしても視ることができなかった部分もある。 

 久々にギンフウの胸が高鳴る。


 フィリアは孤児として育ったために、能力を持つ者としての適切な教育は受けていない。今はいびつな状態で育ってしまったためにこのようなことになっているが、それを本来あるべき姿に戻してやることができれば、『帝国の剣』と呼ばれる者に匹敵するくらいの強者になるだろう。


 うまく育てあげれば、最上の駒になるだろう。


 この若者に質問したいことはたくさんあったが、まずはこの魔力漏洩状態を解決しないことにははじまらない。


「魔力の漏洩というか、暴走する直前だったな。今は、大量の魔道具を破壊したことで症状が落ち着いているように見えているだけだ。仮にも魔法剣士なら、自分の状況はそろそろ理解できているか?」

「はい。自分が弱いから……肉体、器が壊れかけています」


 フィリアは素直に頷いた。

 時間の経過とともに、自分の魔力が上手く操れないことがわかってきた。


 どれくらいの量が外に漏れてしまっているのかは、感覚が麻痺してわからないが、その流れを止めたくても止まらない。

 止める方法がわからない。


 それに、外に漏れる魔力もあれば、内に溜まってきている魔力もある。身体になんらかのダメージが蓄積されていっているのはわかる。


「一週間もセイランの側にいたからな」


 冷ややかなギンフウの視線が、寝台の方へと移動する。

 フィリアの目線もつられて移動しそうになったが、正面を向いたままの状態で、ギンフウの言葉を待つ。

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