12-4.謝罪なんて不要よ
コクランは反応のないフィリアの顔をまじまじと眺めた。
「あら? フィリアちゃん、もしかしたら、ちょっと緊張してる?」
「違うでしょう。魔力漏洩の限界に近づいているのでしょう。立っているのがやっとだと思いますよ。特別な訓練も受けていないのに、大した精神力です」
リョクランがカウンターの中に入りながら、フィリアの状態をコクランに説明する。無言で「早く連れて行け」とコクランを促す。
「……ホントは、色々と手続きが必要なんだけどね。特別にあたしたちのボスのところに連れて行ってあげる。言っとくけど、これは異例中の異例よ。対価は高くつくから、そのつもりで覚悟なさい」
コクランの言葉に、フィリアはなんとか頷く。
少しでも気を抜いたら、意識を失い、倒れてしまいそうだった。
ただ、このままここで意識を失ったら、もうなにもかもが終わってしまうような気がして、懸命にフィリアは耐える。
緊張で硬くなったフィリアの手を、コクランが優しく包み込むように握る。
細くてしなやかなエルフの手は、意外と温かかった。
「じゃ、『深淵』の怒れる獅子と、その無邪気な仔の棲家に案内してあげるわ」
ぱちん、と音がなるようなコクランの見事なウィンクと共に、フィリアは再び【移動跳躍】の渦に飲み込まれていた。
「フィリアちゃん大丈夫?」
一瞬の眩暈の後、気がつけば、心配そうなコクランの顔が目の前にあった。
くらくらする頭を懸命に振りながら、フィリアは周囲を見渡す。
転移に転移を重ねた先は、どこかの部屋の扉の前だった。
重々しいデザインの片開きの扉である。
移動中にいくつもの結界をすり抜けた感覚がしたが、この部屋にも強固な結界が張られている。
「なんとか……。それに、さっきより少し、楽になったかも?」
「……でしょうね。あたしの護符、貴方が一つ残らず全部、ことごとく壊してくれちゃったから、溢れていた魔力が適度に減って、気分がよくなったでしょ?」
「それは……すみませんでした」
「いいのよ、気にしないでね」
コクランはにっこりと微笑む。
「国宝級のけっこうイイやつばかりだったんだけどねー。神宝級のものもいくつかあったのよ。それらが全部、一瞬で壊れちゃったけど、全然、気にしなくていいのよ」
「…………」
「国宝級と神宝級の護符をいっぱい消滅させたんだから、楽になってもらわないと困るわー。なんてったって、とっても貴重な国宝級と神宝級の護符なんですからね。あ、国宝級と神宝級の護符をたくさん破壊したことについては、気にしないでね」
「……申し訳ございません……」
これは……間違いなく、思いっきり気にしろということだろう。
「謝罪は必要ないわ。無意識とはいえ、今回、貴方は生存本能から、冒険者ギルドのギルド長が管理している貴重な魔道具やら、わたしたちの護符を魔力漏洩で散々壊しまくったわよね?」
「…………」
「相当な借金ができちゃったわけよ? その立派な身体と能力で、きっちりと返してもらわないといけないから、そこんとこよろしくね。謝罪はいいのよ。返済してもらえば、謝罪なんて不要よ」
青ざめるフィリアの背中を、コクランは遠慮なくバシバシ叩く。
情報伝達の速さにも驚いたが、明るくサラリと恐ろしいことを言われてしまったことに慄く。
(魔窟だ。ここは魔窟だ。間違いない。ここが魔窟なんだ。魔王の棲み処だ……)
背中の痛みに耐えながら、ルースにも弁償しろと言われていたことをフィリアは思い出していた。
「ま、その損害を誰がどこでどう補填するかは、ボスが決めることだから……。フィリアちゃんは、情状酌量を認めてもらうためにも、ボスに好かれるように、せいぜいがんばりなさいな」
(なにをがんばるっていうんだ……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます