11-17.オレの話、理解したか……?
皇帝は能力のある者を貪欲に欲している。
フィリアが孤児の平民であっても、駆け引き次第では、大切に召し抱えられるだろう。
今は出自、身分関係なく、能力に優れた者が優遇される流れになっている。
それに気づかれることを焦ったルースは、エルトの存在を匂わすことで、フィリアの判断を狂わせた。
ルースはフィリアに選択させたが、フィリアがボス以外の道を選んだ場合、ルースとヤマセのふたりがかりで、フィリアを捕らえ、ギンフウのところに連れて行くことになっていた。
無意味な乱闘騒ぎにならずほっとする反面、あくどい大人たちの策略にはまってしまっているフィリアに同情を禁じえない。
こんなにコロっと騙されていては、この先とても苦労するだろう。
ふたりは一階に到着すると、そのまま従業員の裏口を使って、建物の外に出る。
「うっ……」
ギルドの外にでたとたん、フィリアがうめき声をあげてその場にしゃがみ込む。
地面がぐにゃりと揺れたような感覚の後、激しいめまいと頭痛にフィリアは襲われていた。
「おい、大丈夫か! うわっ!」
地面に崩れ落ちたフィリアを助け起こそうとヤマセが手を伸ばした瞬間、魔力の弾ける音と、痺れるような衝撃がふたりを襲った。
「い、いまのはなに?」
「心配するな。オレの魔法の護符がキャパオーバーで壊れた衝撃だ」
フィリアを不安にさせないためにわざとそう答えたが、ギルドの結界外にでたとたん、魔力漏洩がさらに激しいものとなっていた。
リュウフウ渾身の護符がこうもあっさりと破壊されていたら、ヤマセの装備も危うい。装備破損の始末書と説教は勘弁してほしい。
ただでさえ、回復薬の使用量が尋常ではなく、割り当て予算をひっぱくしていると警告を受けているのに、護符補充申請を提出したらどうなることやら。
ヤマセはもう一度、フィリアの腕をつかむ。今度はゆっくりと、慎重にだ。
「いいか? これからオレたちは【移動跳躍】魔法で、帝都内の某所に移動する。そこは、帝都でありながら、帝都ではない場所だ」
「…………」
「できるだけ心を落ち着かせて、結界を壊さないでくれよな。そこの結界、メンテナンスにすんげー偉い人と、めっちゃくちゃ予算使ってるからな。壊したら、オレがどえらい目にあうからな!」
「…………」
「オレの話、理解したか……?」
黙っているフィリアに、ヤマセは再度確認する。と、ヤマセの護符がまた弾け跳んだ。
「……フロルも移動系の魔法が使えたんだ。なんで黙ってたんだ?」
体調が悪いことも手伝ってか、フィリアの口調はとても険しい。
(まずい。警戒させちまった……いや、嫌われたか?)
ルースとフロルに騙されていた……ということにフィリアがようやく気づいたのだろう。
「……自分よりも上位の魔法が使えるヤツがパーティーにいたら、わざわざ下位の魔法ができる、なんて申告は必要ないだろう。オレは【転移】魔法は使えない」
「それだけじゃないよ。今の動き、元上級冒険者のものじゃないよね? 元々、超級冒険者? まさか、伝説級冒険者だったりする?」
フィリアは額に大粒の汗を浮かべ、青白い顔でヤマセに向かってにっこり笑う。笑顔に凄みがあった。
なかなか鋭いところをついてくるフィリアに、フロルは小さく震え上がる。
「わーっ。わかった。わかった。後で、後で、ちゃんと説明する。だから、今は大人しく、オレと一緒についてきてくれ。これ以上、出発が遅れるようなら、オレも手段を選べなくなる。それは嫌だ」
「わかった。いくよ……」
フィリアが同意したのを確認すると、ヤマセはフィリアを握る手に力を込め、高らかな声で呪文を詠唱する。
時間がない。
護符も残り少ない。
フィリアの身体も限界に来ているだろう。
下手にフィリアに考える時間を与えて、彼の気が変わってしまうと、力ずくで引っ張っていかなければならない。
ヤマセの詠唱が完了すると、一陣の風が周囲に巻き起こり、ふたりを包み込む。風が消えるとそこには誰の姿もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます