11-13.損害はおまえの報酬から差し引くから

 そして、最後の一枚は、偽造登録用紙。

 ランクの上限はない。

 さらに、この登録用紙で登録すれば、冒険者カードに表示されるステータスを偽ったり、冒険者カードを複数作成できたりするようになる。

 聖銀を紙状に加工したものが使用される。


 ルースは言わなかったが、ちびっ子たちの登録用紙は偽造登録用紙なので、最初から聖銀を紙状に加工したものを使っている。


「おまえの羊皮紙製の登録用紙は、白銀を加工したものではなく、偽造登録用紙の方に転写する」

「偽造って……」


 響きからして、聞いてはいけないことを聞いてしまったようである。


「このような形になってしまったのは、わたしの見通しが甘かったからだな。すまないな。許せ……」


 トン、トン、トンと指先で机を叩きながら、ルースがぽつりと小さな声で呟く。


 その表情はルースのようで、ルースではない別の人のようであった。


 バキッツ!


 突然、乾いた音を立てて、フィリアの装備が砕け散る。


「う、うわっ」


 破片がはじけ飛び、フィリアは両手をあげて顔をかばう。


「はじまったか……」

「な、なにがですか! ……っていうか、そ、装備が! ぼくの装備が粉微塵になってしまったぁぁっ!」


 魔力を帯びた籠手や胸当て、肩当てなどがなくなっていた。


 新品とはいえないが、まだ購入してそんなに使い込んでいない。経年劣化は早すぎる。

 そして、また、変な音がして、魔力が込められた外套がびりびりに破れてしまう。


「え? え? え?」


 どうして装備が壊れてしまったのか、フィリアには全くわからない。

 狼狽えるフィリアと違い、ルースは落ち着き払っていた。


「剣を抜いてみろ」


 ルースに言われ、フィリアは腰の剣を抜きはらう。

 と、刀身がボロボロと崩れ落ち、束も同じく崩れて塵となってしまった。


「え? えええ? け、剣が! ギルド長! ぼくの剣が消えた! 消えました! この剣、めちゃくちゃ高かったんですよ! 買い換えたばかりなのに!」

「消えたのではない。お前がさっきからずっと垂れ流している魔力に耐え切れず、劣化したんだ」

「それって、どういう……」


 背後でパキン、パキンと、なにかが壊れる音がした。

 フィリアとルースの視線が、魔道具を保管している棚に向く。


 いくつかの魔道具にヒビが入り、爆発していた。


「ついに魔道具が壊れはじめたか……」


 ルースはいまいましげに舌打ちする。


「お前の剣とは比べものにならないくらい貴重で、高額なものばかりだ。一点ものもあるのに、どうしてくれる? 損害はおまえの報酬から差し引くから、そのつもりでな」

「な、……なんで?」


 話の筋が全く見えない。

 フィリアが呆然としている間にも、またひとつ、魔道具が派手に爆発する。

 爆発はするが、戸棚の防壁が健在なので、破片が室内に飛び散ることはない。

 だが、棚の耐久度も限界に近づいてきている。


「こっちが聞きたいくらいだ。なんで、なにも気づいていないんだ? よく平気で立っていられるよな?」

「さっきから、なにをおっしゃっているのかよくわからないのですが?」

「……今のお前は、魔力で溢れかえって、ダダ漏れ状態なんだよ。それも、かなりの濃度の量がとどまることなく溢れ出ている。それこそ、災害級の魔物が放つ瘴気のようにな」

「へ…………」


 嘘か冗談かと思いたいが、ルースの深刻そうな顔を見ていると、彼が冗談を言っているとは思えなかった。


 受付で冒険者たちが怯えていたり、魔術師や、回復術師が倒れてしまったのは、フィリアの駄々洩れ魔力が原因だったようである。


 こいつが平気でいられるのは、耐久力、精神力、体力のステータスが爆上がりしたからか? とルースはブツブツと呟く。

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