11-12.そんな話、聞いていません

 なぜ、ここまでギルド長がピリピリしているのかフィリアにはわからない。


「この先、スキルアップして威力が増したら、一週間どころじゃなくなるぞ」

「え、それって、ちょっと怖いですね」

「ちょっとどころではない!」


 ルースの怒声がとぶ。


「いいか? めったやたらと魔力相性がいい者同士に必要なのは、自覚と自制だ! 流されるな!」

「…………?」

「返事は!」

「わ、わかりました」


 ルースが怖い。

 ものすごく怖かった。


「潜在能力が高くて、ものすごく魔力相性のいいヤツ同士が、魔力交換をするとだな……」


 ルースはそこでいったん言葉を切る。


「魔力が増えるだけじゃなくて、それにひきずられて、色々なステータスも上昇するんだよ」

「え……? そんな話、聞いていません」

「当たり前だ。教える必要がないと思っていたから話さなかった。理解できないだろうしな。冒険者や平民の間で、そこまで相性のいい相手に巡り会えるなんて、ありえない話だからな」

「それは教えていただきました」


 フィリアの返事に、ルースの顔がさらに渋いものに変化する。


「魔力相性のよい者同士との出会いは、上流貴族のさらに上流で、まれにしかおこらないことだ。それこそ神の采配レベルだ。頂点に立つ皇帝陛下であっても、そんな理想の相手に巡り合うことなどまずできない天文学的とまではいかないが、それに近い確率だ」

「えええっ!」


 どうやら、かなりイレギュラーなことが起こってしまったようである。


「フィリア……お前の出自はわからないそうだが、どちらかが、いや、もしかしたら、どちらもかなり高貴な方である可能性が高くなったな! おめでとう!」

「…………」


 ギルド長は「おめでとう」と言ったが、全然、めでたそうな顔をしていない。嫌味だろう。


「まあ、そういうわけで、冒険者カードの文字化けは、おまえのステータスが、通常の冒険者カードの許容量を超えただけだ」

「だけ……で片付けていいんですか?」

「かまわない。まあ、通常よりもいびつで、ヒトとしてはありえないくらいに一気に上昇しすぎたから、その反動が心配だが……」

「そ、それって、ヤバイという意味では?」

「カードの現象自体は破損ではない。ペナルティはつかない。カードの文字化けは、新しい上級者用の登録用紙に転写したら簡単に直る」


 心配ないと言われても、にわかには信じがたい。

 言葉の内容と、ルースの表情が全く合っていないからだ。

 ルースはこの世の終わりが来たような陰鬱な表情になっている。


「登録用紙は、三種類あるんだ」


 通常の羊皮紙製の登録用紙。

 これは、初級冒険者から超級冒険者までが対象の用紙である。一般に多く流通しており、お手頃価格で用意できるので、普通はこれが使われている。


 そして、伝説級冒険者以上を対象とした、見た目は同じ羊皮紙製なのだが、白銀を紙状に加工した登録用紙。

 冒険者のステータスが、超級冒険者の上限値に近づいたら、頃合いをみてそちらに転写する。


 超級冒険者の上限値に近づいた証が、冒険者カードの文字化けである。

 この不可思議な記号の羅列には意味があり、持ち主本人を不安に陥れ、ギルドへ向かわなければならなくなる、という衝動を組み込んでいるらしい。


 なので、フィリアは迷わず冒険者ギルドを訪問したのだ。

 ルースはさらっと語ったが、なかなかに恐ろしいシステムではないだろうか。


 最初から白銀製の登録用紙が使えたらよいのだが、コスト的なことと、大量生産ができないこと、超級冒険者かつ、ステータスが上限値にまで成長する冒険者の数が圧倒的に少ないという条件が重なり、この方法がとられているらしい。


 すぐに死ぬかもしれない駆け出し冒険者に白銀製の登録用紙など、もったいなくて使ってられない、ということだ。

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