11-9.なにしにココに来たんですかっ!
昼前の時間だと、冒険者ギルドの受付は空いているはずなのだが、今日はトラブルでもあったのか、多くの冒険者がギルド内に残っていた。
もしかしたら、依頼完了報告に訪れた団体とバッティングしたのかもしれない。
受付にも列ができていた。
この様子ではだいぶ待たされそうだが、カードの修繕にかかる時間や、多忙なルースといつ面会できるか予測できないので、出直しはせずに、このまま並んだ方がよいだろう。と判断する。
フィリアがギルドに足を踏み入れた瞬間、今まで騒がしかった室内が「しん」と静まり返った。
(…………?)
なにやら緊迫した空気が漂う中、フィリアはカウンターの方へ歩いていった。
すると、ざ、ざっと音を立てて、冒険者たちが左右に分かれる。
(怯えてる……?)
理由はわからないが、冒険者たちの表情と視線が、まるで、ダンジョン内でいきなりドラゴンに遭遇したかのようなものになっている。
腰を抜かして崩れ落ちる魔術師や、気を失って倒れる回復術師などが、フィリアの視界の隅に入り、それを居合わせた戦士たちが慌てて介抱する。
(静かだけど、なんだか騒々しいよな?)
首を傾げる。
一体、なにが起こっているのかわからないが、自分には関係ないことである。
フィリアは立ち止まらずに、どんどん受付カウンターの方に進んだ。
行儀よく列の最後尾に並んだのだが、フィリアの前に並んでいた中級クラスの冒険者パーティーが慌てて列から外れる。
「並ばないの?」
「ひいっ。はひぃ。お、おれらはちょっと、忘れてたことがあって。お、お先にどうぞ」
「わかった」
と答えて一歩前進すると、そのたびに「お先にどうぞ」と人が散っていく。
驚いているうちに、フィリアと受付カウンターの間に遮るものがなにもなくなった。
(どうしたんだろう……?)
とても奇妙な現象だ。
受付嬢のペルナが、大きく目を見開き、あんぐりと口を開けて固まっている。よくよく見ると、全身の毛が逆立っていた。
ペルナの元に行こうとした瞬間、フィリアは受付の奥から、必死の形相でこちらに駆けてくるトレスの姿をとらえた。
「フィリアさん!」
ギルド長専属秘書はためらうことなくフィリアの元に駆け寄ると、がしっとフィリアの右腕を掴んだ。
冒険者たちの間から「おおーっ」という、驚嘆とも称賛ともとれる声がわきあがる。
「フィリアさん! なにしにココに来たんですかっ!」
噛み付くような勢いでまくしたてられる。
「え? なにしに……って、冒険者カードの調子が悪いのと、ギルド長に面会申し込みをしに……」
「なにを呑気に答えてるんですか!」
思いっきり怒られる。
なにをしに来たのか聞かれたから答えたのに、あんまりである。
トレスは「とにかく、変なことは一切せずに、大人しくついてきてください」「なんで、馬鹿正直に正面からやってくるかな……」「受付カウンターを使おうとするかな……」とかブツブツと文句を並べながら、とまどうフィリアをぐいぐい引っ張り、奥へ続く廊下へと追い立てる。
(別になにもしていないのに……)
すでになにかをやらかしたような言われように、フィリアは納得いかないものを感じた。
しかし、ここで反論してもよいことなどひとつもないだろう。
廊下ですれ違うギルド職員が、トレスとフィリアをみて、驚きの表情を浮かべながら、壁にへばりついてふたりをやりすごす。
一週間ごぶさたしただけで、どことはわからないが、ギルドの雰囲気が馴染みのないものへと変わってしまっていた。
ギルド内はとてもピリピリしている。
まるで、魔物暴走の連絡を受けたときのようだった。
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