11-8.ようやく見つけた

 フィリアは大勢の人々が行き交う大通りを急ぎ足で歩く。

 【移動】魔法を使えば一瞬で到着しただろうが、このときのフィリアはひとつのことしか考えていなかった。


(強くなりたい……)


 という、今までになかった強い衝動がフィリアを突き動かす。


(エルトを護れるくらいに強くなりたい)


 今は辛うじて、フィリアの方がエルトよりも勝っている。

 それは、ステータスの面ではなく、人生経験の差でしかない。


 子どもの成長は早い。あっという間にエルトはフィリアを追い越し、遠い存在になってしまうだろう。

 エルトなら伝説級冒険者、神話級冒険者にもなれそうだ。


 そして、エルト本人が望む、望まないにかかわらず、強者であるが故に課せられる義務と宿命からは逃れられない。


 エルトが成長したとき、彼にはどのような運命が待ち受けているのだろうか。

 あの悪夢がフィリアの心に重くのしかかる。


(側にいることが許される強さが欲しい)


 フィリアが求める『強さ』とは、単純な戦闘能力だけではない。


 それは知恵であり、強靭な心であり、揺るぎない地位である。

 親の名も知らぬ孤児であるからこそ、自らが動き、自らの手で、手に入れなければならないものだ。


 大事なもののためには、綺麗事だけではなく、金や人脈、権力など生々しいことや、闇に染まることに対してもためらってはいけない。


 そして、フィリアはリオーネにも負けたくないと思ってしまう。

 あの少年もまた、エルトを護るための強さを欲し、エルトの側にいることに執着している。


 その強い想いがフィリアの行動と思考を支配する。


 身体が熱く、体内にある魔力がみなぎっている。

 これほどまでに強く、貪欲になにかを欲しがったことは初めてだ。


 孤児院にいた他の子たちは普通の家族や両親を欲しがったりしていた。

 両親がいる子を見て、フィリアも羨ましいと思ったこともある。

 赤字運営の孤児院では、ひもじい毎日を送っていたので、満たされた食事や、豪華な暮らしに憧れたこともある。多くの収入を得るために冒険者の道をフィリアは選んだ。


 だが、孤児院育ちのフィリアは、必要以上に欲しがることはしなかった。

 必要以上のモノを望むのはいけないことだと教わってきたからだ。


 今までフィリアは自分の限界を言い訳にして、伝説級冒険者を目指すことから目をそむけていた。


 ルースからなにやら怪しげな組織を紹介されそうになったが、反射的に耳をふさいだ。さらに、ギルド長には、帝国への仕官を断ってもらってもいた。

 これでいい、このままでいい、と自己完結していたのである。


 ルースギルド長から色々と言われもしたが、フィリアの心は動かなかった。


 だが、エルトと出会ったことによって、フィリアの心が揺れ動いた。

 生涯をかけて、己の全身全霊をかけて護らなければならない存在……というものをフィリアはエルトに感じ取ったのである。


(ようやく見つけた。出会えた)


 なぜ、そう思ったのかはわからない。


 ただ、もともとはひとつでないといけないものがようやく揃ったとでもいうべきか。

 足りなかったパーツがカチリと音をたててはまるような感覚だ。


(ぼくの全てを捧げる人だ)


 フィリアの魂が喜びに震える。


(もっと、もっと、強くなるんだ)


 この先がむしゃらにギルドの依頼を請けて、経験値をあげても、フィリアが求める『強さ』は手に入らない。


 ルースに相談すれば、なにかしらの『きっかけ』がつかめるはずだ。

 ただし、相応の対価を要求されるだろうが……。


 そのようなことを考えながら、冒険者ギルドの扉をフィリアは開けた。

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