11-7.なんだ? コレ……
フィリアは額に手をやる。
目覚めたときから感じていた違和感。
なんとなく身体が気怠くて、自分の身体ではないような違和感があった。
幼い頃から自分でもあきれ返るほどの健康体だったので、病気で寝込んだという記憶は数えるほどしかない。
風邪のひきはじめ、発熱前の気怠さに少しだけ似ているような気がした。
飲まず食わずで一週間もの間眠り続けたのだから、体調がおかしくなっていても不思議ではない。
むしろ、空腹を感じず、衰弱した様子もなく、こうして普通に起きている方がおかしい。
回復魔法を唱えるべきか、回復薬を飲むべきかと悩む。薬師か医者にでも診てもらった方がよいのだろうか。
あれこれと考えていると、不意にチリチリと焼けつくような痛みを胸元に感じた。
痛みの場所は、首から下げているドックタグ型の冒険者カードがある場所だ。
「どうしたんだ?」
気のせいではなく、ドックタグが熱を放っていた。
反射的にフィリアは寝衣の中からドッグタグをとりだし、【ステータス】と唱える。
フィリアの声に反応して、ドッグタグが淡い光を放ち、冒険者カードへと変化した。
「なんだ? コレ……」
フィリアの表情が困惑に歪む。
わけのわからないことだらけだ。
なんと、フィリアの冒険者カードは、見たこともない記号でびっしりと塗りつぶされていたのであった。
「これって、まずいんじゃないか?」
フィリアの顔色が悪くなる。
冒険者ギルドは、冒険者カードの破損、紛失に関してはとても厳しい。
故意による悪質な行いの結果……と判断されたら、最悪、冒険者の資格をはく奪されることだってあるのだ。
「どうして壊れたんだ!」
意味不明な記号の羅列になってしまった冒険者カードをドックタグに戻すと、フィリアは身だしなみを整え、急いで部屋を出た。
考えるよりも身体が先に動いていた。
とりあえず、冒険者ギルドの受付に行って、冒険者カードの調子が悪いことを伝える。そのついでにルースギルド長との面会を申し込もう。とフィリアは大通りを早足で歩きながら考える。
冒険者カードの一面を覆い尽くすような、謎の記号の羅列は、フィリアを不安の底に陥れるには十分すぎる効果があった。
一週間放置したことになっている仲間たちの進捗状態を確認するのは、その要件が終わってからでもいい。
仲間たちの超級冒険者向けの研修は……おそらく、あのメンバーでは、脱落者や欠席する奴がでたりして、まだ終わっていないだろう。今も研修中だ。
そんな予感がした。あいつらもあいつらで、なにかしらやらかしていそうだった。
まとめ役であるフロルも苦労しているだろう。
超級冒険者にもなると、貴族からの依頼を受けることも多くなり、冒険者ギルドの顔ともいえる存在になる。
騎士団のサポートとして駆り出されることもある。
公の場にだしても恥ずかしくないような思慮と分別とマナーをひととおり身につけさせようというギルドの目論見があるので、研修の内容も合格基準も一気に難しく、厳しくなる。
特に、ルースがギルド長になってからは、研修内容が見直され、さらに厳しくなっていた。
日数制限はないが、脳筋ガサツな冒険者は研修内容についていけず、多くの者が自らリタイア宣言をするという。
贅沢は言わない。多くは求めない。研修期間が一ヶ月を越えてもいいから、全員超級冒険者になってほしい、とフィリアはひそかに思っていた。
ちなみに、フィリアの予想は残念なことに的中していた。
『赤い鳥』のメンバーのギル、ミラーノ、エリーの三人は、二日酔いのために、初日の初回の研修をすっぽかす……という、前代未聞のやってはいけないコトをやってしまい、激怒したルースギルド長から、フロルも含めて大量の補講を言い渡されていたのであった。
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