10-12.めちゃくちゃよかった

 フィリアとセイランを直接知るランフウはは、以前よりふたりの魔力系統が似ているとは感じていた。


 とはいえ、その『似ている』は、よくある一般的な「なんとなく気が合う」「一緒にいると落ち着く」「友達になりたい」程度のものだと、ランフウは判断していた。


 魔力交換をしても、拒絶反応がでない程度。

 回復魔法をかけてもらうと、他の人の回復魔法よりも治りがいいな。と感じるくらいの一般的な事例だ。


 波長があうともいう。

 なにかの組織に所属すれば、同じ班に配属される程度の相性である。


 ランフウだけではなく、ヤマセも同様の見立てだったので、ギンフウにはそのように報告していた。


 なので、ランフウはそこまでふたりが、あそこまで惹かれ合うとは思ってもいなかったのである。

 ヤマセもこの展開に驚き、焦っていた。


 見ている方が恥ずかしくなるくらい、ふたりはとても初々しくて、すごくいい感じにイチャイチャしていましたよ。

 など、口が裂けてもギンフウには言えない。

 絶対に言ってはいけないことだ。


 状況を把握したギンフウの顔から一切の表情が抜け落ちている。

 ランフウはそろそろと位置を移動し、ソファの端にまで退避する。部屋から逃げ出したいが、それは無理だ。


「カフウ……そんなに、相性がよい相手だったのか?」

「よい、どころではない。めちゃくちゃよかった。あんなにぴったりと重なる組み合わせは、はじめてみた。『深淵』の誰よりも上だった。だから置いてきた」


 置いてきたのではなく、ここは預けてきた、と表現するべきなのだろうか……。

 険しい顔をしたギンフウと、困惑しているランフウの視線がぶつかりあう。


「ランフウ、どういうことだ? アレについての報告では、そういったことは一切、なかったぞ」

「申し訳ございません。わたしも、そこまであのふたりの相性がよいとは……わかりませんでした」

「いや、魔法が使えなくなったランフウが、そこまで見抜くのは難しいか。しかし、なぜ、ヤマセも気づけなかった?」

「ですよね。本人も不思議がっていました。なぜでしょうか?」


 大人たちが首をかしげる。

 と、カフウが勢いよく手を挙げた。


「ギンフウ、おそらく、ヤマセの帰還『対価』は『遠くを射抜く技』ではなく『見極める目』だったのではないかと推察される」

「なんだと……」


 カフウの指摘に、ふたりの大人は口をつぐむ。


 五年前に帝国中を震撼させた虐殺事件『エレッツハイム城の悪夢』。

 その場に居合わせ、運よく生き残った者は、生還するために己にとって『大事なもの』を『対価』として『堕ちた神』に奪われてしまった。


 なにが『対価』だったのかはわからない。

 高レベル鑑定魔法【鑑定・烈】が使えた者は視力を失い、その結果【鑑定・烈】魔法が使えなくなった。

 使役獣や精霊を呼び出すことができなくなった者もいる。


 魔法剣士だったランフウは、魔法を使うとダメージを負うようになり、魔法剣士としての能力を失った。


 逆に、ギンフウはなにを『対価』として奪われたのか、未だにわからない。


「なるほど……『見極める目』か。確かに、それを失えば、遠射しても的に当たらなくなるな。なるほど。カフウ、よいところに気づいたな」

「カフウ、お手柄ですね。遠視ができる者を側におけば、またヤマセの遠射が使えるということですね」


 ふたりの大人に褒められて、カフウは嬉しそうにはにかむ。


「だったら、ご褒美として、垂直移動装置の分解許可……」

「だめです! それとこれとは別ですよ」


 ランフウの冷たい拒絶に、カフウは頬をふくらませて睨みつける。

 これ以上の交渉は無理だと悟ったのか、少女は口を閉じる。


 ハヤテはというと、ますます不機嫌な顔になり、そっぽを向いていた。

 この件については触れたくもないし、思い出したくもない、と主張しているようだった。

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