10-11.ひとり足りないようだが?

「ランフウはこれ」


 片手サイズの魔物石をランフウに渡す。


「ゴブリンジェネラルの魔物石だな」


 ギンフウは【鑑定】魔法を発動させ、その魔物石がなんであるかを、子どもたちに教える。


 ナニに返却した魔物石では、上の下といったくらいだ。

 ゴブリンジェネラルとしては、上質の魔物石である。


 子どもたちに組織内での序列順位はまだ教えてなかったはずだが、なかなかしっかりと観察されている。


「ランフウのギルド長、非常に格好良かった。制服も非常に似合っていた」


 魔物石を眺めているランフウに、カフウが言葉を続けた。


「そうか。そうか。よく似合っていただろう?」

「うん。よく似合っていた」


 小さな少女に褒められて、お土産効果もあり、ランフウの機嫌がよくなる。嬉しさのあまり表情筋が緩くなってしまうのは、仕方がないだろう。


 ゴブリンキングの魔物石を持ったままのギンフウが「羨ましい」といった目でじっとこちらを見ているのが、なんとも面白い。


「だから、垂直移動装置の分解を」

「却下!」

「最後まで言っていないのに……」


 ハーフエルフの少しだけ長い耳が、しょぼんと垂れているように見える。

 その姿に騙されてはいけない。


「ダメなものはダメです。垂直移動装置を分解するなど許せません!」

「元に戻すから」

「仮に元に戻せたとしても、ダメなものはダメです」

「だったら偽造ギルドカードの……」

「ギルドカードの分解も認めません!」

「だったら……」

「却下!」


 ランフウとカフウのやりとりを呆れたように眺めながら、ギンフウは重い口を開いた。


「ところで……ひとり足りないようだが?」

「足りませんよね?」


 ギンフウの指摘に、ランフウはカフウとの会話をきりあげ、とまどいながら頷く。

 ひとり足りないのは最初から気づいていたが、ランフウはあえて気づいていないふりをしていた。

 できたら先送りしたかった話題である。

 とても悪い予感がした。


 そして、リョクランが使役している精霊が、こちらを観察している気配もする。


「セイランはどうした?」

「置いてきた」

「はぁ?」


 カフウの言葉に、ギンフウは「なにを言っているのかわからない」と首を傾げる。


「あ、置いてきた……じゃなくて……お持ち帰り?」


 ますますわからない。


(何故、そこで疑問形なんですか! しかも『お持ち帰り』って、カフウはギンフウに何を言っているんですか!)


 ランフウは心の中で悲鳴めいた叫びをあげるが、表面上では沈黙と無表情を貫く。


 心のなかでどのような葛藤がなされているかわからないが、ギンフウに動揺はみられない。

 いいや、落ち着きすぎていて逆に怖い。


「お持ち帰り?」


 カフウの言葉をギンフウは鸚鵡のように繰り返す。


 いつも、この娘は、どこでそんな言葉を覚えてくるのだろうか……。

 一体、誰が教えなくてもよいことまで、カフウに教えているのか。

 いや、今はそのようなことを問題視している場合ではない。


 誰が何を……いや、誰が誰を持ち帰ったというのだろうか。


「冒険者ギルドにいた綺麗な顔をした魔法剣士を、セイランはいたく気に入った」

「ああ……」


 カフウの説明に、ギンフウはぎこちなく頷いた。


 今日、冒険者ギルドで、セイランが、自分よりもさらに、魔力相性がよい相手と出会った……。

 魂の片割れと表現してもよい人物と出会った。

 それは、遠く離れていても感じたくらい、衝撃的な出会いをしたのだろう。


 その感情の機微を感じられるくらい、ギンフウとセイランは、深い部分で繋がっている。

 ギンフウよりもさらに深い部分で繋がれる人物が、ここで登場したのだ。


「……そうですね。アレは非常に珍しい……反応でしたね」


 カフウの報告に、その時のセイランの様子を思い出したのか、ランフウがうっかり同意してしまった。

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