9-1.カンパーイ!
「まずは、陰険なギルド長から開放されたことに」
「カンパーイ!」
「乾杯……」
「ったく、とりあえず……乾杯な」
「はぁ……」
ミラーノが乾杯の音頭をとり、エリーが高々とジョッキをかかげる。
が、フィリア、フロル、ギルの反応は、あまりよろしくない。
男たちは不味そうに、ジョッキの中身をちびちびと飲み込んでいる。
「ぷはー。やっぱ、酒はいいよねー」
「おかわりー!」
「こっちもおかわりー!」
ミラーノとエリーが同時に、ジョッキを空にし、酒場内を忙しく走り回っている給仕に酒の追加を注文する。
飲み物と同時に注文していた料理も、続々とテーブルの上に並べられ、新たな追加の酒がミラーノとエリーの前に届く。
男性陣のジョッキの中身は、半分も減っていない。
上機嫌な女性陣に比べ、男性陣は葬式の後のような陰気な気配をまとっている。
「じゃ、今度は、あたしたちの超級冒険者ランクアップを祝して!」
「カンパーイ!」
ミラーノとエリーの陽気な声が、満員の酒場に響く。
「落ち着いて。まだ、ランクアップはしていないんだよ。みんなには、まだ、研修が残っているよ」
「おい。待て! まだ、おれたちは(仮)超級冒険者だからな! 頭に(仮)がついているのを、くれぐれも忘れるなよ!」
「はずかしい……」
はっちゃけている女性陣と、それに頭を痛めている男性陣を、同席している子どもたちは冷ややかな目で眺めていた。
「なーに? みんな、辛気臭い顔して。どうしちゃったのー?」
「おかわりー!」
「あ、こっちもおかわりー!」
ミラーノとエリーはウワバミも青ざめるくらいのハイスピードで、エールをぐびぐびと飲み干していく。
見事な飲みっぷりだ。
しばらくすると、周囲の客がふたりの酒豪に気づき、感嘆の声や、彼女らがジョッキを空にするたびに拍手喝采がわきおこるようになった。
ギルド長を前に、相当鬱積していたのか、彼女たちのハイテンションぶりに、フロルは思わず頭を抱えた。
ここは、冒険者ギルドから少し離れた場所にある酒場で、料理が上手いと評判の店だった。
美味しい料理を出す店ということで、単価もそこそこ高く、賑わってはいるが、客層は意外と落ち着いている。
ぐるりと酒場内を見回してみても、レベルの低い冒険者は見当たらない。
上級冒険者のグループがちらほらといたが、身なりのよい職人や商人たちのグループが大半を占めていた。
ミラーノとエリーはいつもの、喧騒と喧嘩に溢れた、お手頃価格の酒場に行きたがったが、そこは少しばかり客層が悪いので、「子どもを連れて行く場所ではない」とフィリアとフロルが猛然と反対した。
そうしたら、今日の飲み代はフィリアとフロルが負担するということになり、この店で夕食もかねた酒盛りをすることとなったのである。
酒を時間をかけて嗜みながら、料理をつまみ、ウィットに富んだ会話を愉しむ……という趣旨の店に対し、ミラーノとエリーはすこしばかり、浮いた存在であった。
店にそぐわない客として追い出されるのではないかと、フロルは女性陣の行動にハラハラしている。
ギルは居た堪れないとでもいいたげに、大きな身体を小さくして席に座っていた。
「じゃ、次は……ちびっ子冒険者諸君のデビューに」
「カンパーイ!」
「おかわりー!」
子どもたちは、果実水が入ったコップを握りしめたまま、固まってしまっている。
彼女たちと目をあわそうともしない。
まあ、その気持はわからなくもない。とフィリアは思った。自分もそうなのだから……。
「……あのふたりは勝手に酔っ払って盛り上がっているから、もう、気にしなくていいよ。こっちは、こっちでそろそろ、食事をはじめようか」
「そうだな。酒はともかく、メシは生きていくうえでは必要だからな」
フィリアとフロルが諦めたように呟く。
奢りとなると、ミラーノとエリーの酒量はさらに増える。遠慮というものを彼女たちは知らない。特に、仲間たちに対しては無遠慮になる。
子どもたちがいるとはいえ、テーブルに並べられた料理の数も、いつもより多い。
完食できるのか、少し不安になる量だった。
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