7-36.一週間の謹慎だ
フィリアとギルが心配そうに見守る中、ナニは小さく頷いた。
「……お土産として使用しても恥ずかしくない、質の良い魔物石が返却されることを希望する」
「任せろ。もらった相手が、腰を抜いて驚くくらい、立派な魔物石を返してやる」
ルースの目配せにトレスは頷く。
査定部門に宛てた【書類鳥】が飛び立った。
「ギルドが買取した素材類は、この件の損害補填と隠蔽のための裏工作の資金。そして、ちびっ子たちのお目付け役を引き受けた『赤い鳥』への報酬にあてる」
ルースの怒気にあてられて疲れたのか、報酬自体の行く末には興味がないのか、子どもたちは大人しく説明を聞いている。
残金は三等分して、それぞれ子どもたち名義のギルド口座に積み立てるとルースは宣言した。
現金が必要であれば、ギルドの受付で申請すれば受け取ることができる。
子どもたちはまだ幼いということで、一日に現金化できる限度額も設定しておくことになった。
そして、現金化を申し込む場合も『赤い鳥』の誰かが同伴しなければならない、という設定もルースは付け加える。
子どもが大金を持ち歩くのは、トラブルの元になるし、教育上よくない、というルースの判断である。
(う――ん? ギルド長、いつも以上に細かいような……)
あれこれとトレスに細やかな指示をだすルースギルド長を、フィリアは驚愕の目でもって眺める。
自分たちが駆け出しの頃もなにかと面倒をみてくれたが、それをはるかに上回る気遣いぶりである。
それだけ、ルースはこのちびっ子たちの暴走を警戒しているのだろうか。
至れり尽くせりを通り越して、過干渉すぎるのでは? とフィリアは思ったが、仲間からしてみれば、どっちもどっちという意見で落ち着くだろう。
【書類鳥】が忙しく行き来している。
その忙しない様子に『赤い鳥』のメンバーは、ちびっ子たちがやらかした事件の被害規模を漠然と感じ取り、改めて自分たちが厄介なことに巻き込まれたと思い知らされる。
積極的にかかわろうとするフィリアにひとこと、ふたこと嫌味を言ってやりたい気分にもなった。
しかし、フィリアが引き受けなくても、結局はギルド長の命令でちびっ子たちの世話をさせられているような気がしたので、なにも言うことはしなかった。
それにしても、損害補填や裏工作に使用されてなお、金が余って積み立てすることができるというのだから、薬草や魔物石の評価が高く、かなりの高額で買い取られるみたいだ。
驚くことが多すぎて、感覚が麻痺してきそうだ。
ギルド長が子どもたちに語って聞かせている。
子どもたちが聞いているかどうかは謎だが、ルースは律儀に報酬金の詳細説明をしはじめた。
説明はしたが、実際の損害金額、裏工作にいかほど使われるかは、すぐには算出できない。
事後処理が終了したときに、実際の金額が判明するので、子どもたちが報酬を手にするのには、もう少し時間がかかる。
「いいか? お買い物をしたり、お小遣いが欲しくなったら、『赤い鳥』に相談するんだぞ。『赤い鳥』がこれは無駄遣いだからダメって言ったら、ダメだからな。わかったか?」
「わかったよ」
「理解した」
「はい」
『赤い鳥』は、監視、教育、護衛任務の他に、子どもたちの資産管理も任されてしまったようである。
「それから、ちびっ子たちは、一週間の謹慎だ。その間、冒険者カードは没収する。謹慎中は、冒険者ギルドの立ち入りはもちろん、一切の活動も認めないから、注意するように」
「え――――っ!」
「え――――っ!」
「え――――っ!」
大人しかった子どもたちから不満の声があがった。
今までで、最高音量の不満の声である。
報酬の没収よりも、謹慎、いや、冒険者カードを没収されることが嫌なようだ。
怒りのあまり暴れだすか……と、大人たちは身構えていたが、よほどショックなのか、怒りを通り越して、放心状態になっている。
落ち込んでいる子どもたちを見ると、ちょっと気の毒な気分になったが、お咎めなしというわけにはいかないだろう。
むしろ、謹慎が一週間で終わることを喜ぶべきだ。
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