7-37.明日から暫く休みたい気分だろ?

「もちろん謹慎中に、冒険者ギルドを通さないで、魔物退治や採取行為、探索など、冒険者活動とみなされる行為も一切禁止だ」

「え――――っ!」


 この制限に関しては、リオーネだけが不満そうである。


「違反した場合は、冒険者資格を剥奪するからな。史上、最年少の剥奪者になりたくなかったら、大人しくしておくことだ」

「…………」

「ばれなきゃいい、とか思っているかもしれないが、冒険者ギルドのスキル鑑定能力をなめるなよ。経験値の変動をトレースできるから、なにかやったら簡単にわかる」

「…………」


 リオーネはまだ納得できないのか、強い目でルースを睨みつけている。よほど、冒険者活動を楽しみにしていたのか、なかなかの根性である。


「どうせ、『赤い鳥』のメンバーは研修で缶詰だ。活動できないぞ」


 唸り声をあげている子犬を宥めるかのように、ルースがぞんざいに言い放つ。


「……フィリアがいるじゃん!」


 リオーネが真っ向から反論する。依頼を受けるには『メンバーの誰かが必ず、同行する』というのが条件だ。『全員』とは言われていないので、フィリアひとりさえいれば問題はない。


「いや、フィリアからは、一週間の休暇申請がでている」

「え? 休暇申請?」


 リオーネではなく、フィリアが驚く。休暇申請などだしていない。

 なにかの間違いでは……と言おうとフィリアが口を開きかけるが、ルースにギロリと睨みつけられる。


「だしたよな? 忘れたのか? 明日から暫く休みたい気分だろ? 休みたいだろ? 休むよな?」

「へ?……あ、いえ。ああ……そういえば、そろそろ、ゆっくり休みたい。と思ってました……」


 ルースの気迫に負けて、フィリアは出してもいなかった休暇申請を出していることになってしまう。


 トレスの手元から新しい【書類鳥】が飛び立った。

 きっと、あれは、フィリアの休暇申請を受理するために必要な文書だろう……。

 フィリアは飛び立った【書類鳥】を呆然とした表情で見送った。


「ちびっ子たちが大人しくしている間に、今回の問題を片付ける。頼むから、下手にウロチョロして、問題が片付かないうちに、新たな問題を作ってくれるな! 家でおとなしくしてくれ」

「えー……やだ!」


 なおも渋るリオーネに、仕方なくフィリアは飴をちらつかせる。


「リオーネ、あまりギルド長を困らせちゃだめだよ。『赤い鳥』のメンバー『全員』が研修から戻ってきたら、一緒に、ダンジョンに行こうか?」

「わかった! 約束だぞ! ダンジョンだぞ!」

「約束するね。『みんなの』研修が無事に『終わった』ら、ダンジョンに行こうね。だから、謹慎中は、家で大人しくしているんだよ。それが約束だからね」

「わかった。家でおとなしくしている!」


 リオーネはダンジョンと言う言葉に大喜びしているが、残りのふたりは淡々としている。「ダンジョン面倒くさい」と心の中で思っているのではないか、と疑いたくなるくらい、冷たい態度だった。


 とはいえ、なんとか子どもたちは納得してくれたようで、大人たちはほっと胸を撫で下ろす。


 一週間以上の猶予ができたことに、一番喜んだのはルースだろう。

 

 子どもたちには話していないが、今回、ギルドに提出された薬草と魔物石、討伐内容だけみれば、上級ランクの仕事内容と功績になる。


 子どもたちの元々のステータスも高く、上級冒険者、厳しく見積もっても中級冒険者にはなれる査定結果がでた。


 いわゆる、非常に珍しい飛び級事案が発生したのだ。


 ルースとしては、初級冒険者でとどまってほしいと思っているのだが、システム上、他のギルド支部に通知がいってしまっているので、隠すことができない。


 子どもたちをどのランクに定めるか、他の支部のギルド長と会議を行った上で、決定される。こればかりは、ルースの単独決定は許されていない。合議制だ。


 謹慎が終わる頃には、子どもたちの冒険者ランクも決定しているだろう。


 そして、ランクアップした子どもたち自身の研修が、有無をいわせずはじまるのだ。


 実際のところ『赤い鳥』の研修は、フィリアのように一週間では終わらないだろう。


 フィリアが異例であって、通常は十日から二週間、怠け者がいれば、三週間はかかるなかなか手ごたえのある研修なのだ。


 楽しみにしているリオーネには気の毒な話だが、フィリアの言う「『みんなの』研修が無事に終わったら」は、しばらく先のこととなる。


 子どもたちの冒険者カードを没収すると、ルースは冒険者たちに解散の許可をだした。




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