7-32.この件は他言無用だぞ
「で、合同討伐の件だが……」
「ギルド長、ちゃんと聞いていましたよ。キャンセルですよね? わかっています」
フィリアが頷く。
「わかっているのなら問題ない。……ということで、フィリア以外のメンバーは、明日から一週間、超級冒険者用の研修を受けるように」
「えーっ」
「えーっ」
「えーっ」
「えーっ」
メンバーの心の底から発せられた嫌そうなブーイングに、フィリアとルースが苦笑を浮かべる。
「研修って、カッタルイのよねぇ……」
「二十四時間、寝ても覚めてもスケジュールでびっしりだからな」
面倒くさそうに呟くミラーノに、これまた面倒くさそうな表情でフロルが頷く。
「まあ、超級冒険者用の研修は、座学がほとんどだから、ちょっとキツイけど……。超級冒険者として活動するには必要な知識だから、あきらめて、がんばってね」
嫌がるふたりに、フィリアは笑顔で激励の言葉を贈る。
「ちょっとじゃないわよ」
「他人事だと思って……」
「いや、ぼくも超級冒険者にランクアップしたとき、研修はちゃんと全部受けたから。みんなもがんばろうな」
ぶうぶう文句を言う仲間たちを、フィリアはにこやかな笑顔を浮かべながらなだめる。
うん、このやりとりは、貧乏くじに愛されているフィリアと、それに巻き込まれる愉快な仲間たちだ。いつもの『赤い鳥』だ。とルースは安堵する。
「いいか? さぼったり、受講態度が悪かったら、補講があるぞ。一週間で終わらせたかったら、真面目に受講するんだな」
特例は一切認めん、とルースに断言され、メンバーはおとなしくなる。
今後の展開に備えて、ルースは一日でも早く、超級冒険者で構成された冒険者パーティーを手駒として揃えておきたい、と考えたのだろう。
『赤い鳥』メンバー全員が、超級冒険者として活動できる状態にする、というタスクは、ルースの中では優先度が高そうだ。と、フィリアは感じ取っていた。
魔法剣士は心のなかで盛大なため息をついた。
今後、今まで以上に、ルースにこき使われそうだ。
心配そうに自分を見上げるエルトの視線に気づき、フィリアは「大丈夫だよ」と微笑んでみせる。
振り返ってみると、今までが順調すぎたのだ。
直接的な剣術指導はもちろんなのだが、ルースギルド長には、見えないところで色々と便宜をはかってもらっていた。
その借りをまとめて返せと、ルースに迫られても不思議ではない。
ルースにしてみれば「ようやく使えるようになった」と思っているだろう。
ルースはフィリアたちに『駒』としての価値を認め『投資』したのだ。
この子どもたちが『余計なこと』をしなければ、ルースの返済取り立て開始時期は、もう少し先だったかもしれないが。
のんびりしたかった、と思うメンバーもいるだろうが、これはこれでよいのではないか、とフィリアは思った。
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「わかっているかとは思うが、この件は他言無用だぞ」
「わかっています。メンバーには徹底させておきますから、ご安心ください」
「この場の話を忘れろとは言わん。むしろ、心に留めておいてほしい」
ルースの含みのある言葉に、フィリアの表情が一瞬だけ強ばる。
ほらみたことか、と、自分の予測が間違っていなかったことを、フィリアは苦々しく思った。
「……ギルド長は、ぼくたちに、この子たちのお目付け役をしろと、おっしゃりたいのですか?」
仲間と子どもたちにもわかるように、ストレートに質問する。
今まで険しかったルースの顔に笑みが浮かんだ。
なぜか、緊迫した気配が、部屋の中に充満する。
誰かの押し殺した悲鳴が聞こえた。
優秀な生徒の反応に喜ぶ教師……と言うには、少しばかり笑みが邪悪すぎる。
ギルド長は、怒りを抑えているときよりも、笑っているときの方が怖い。と、『赤い鳥』のメンバーは思った。
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