7-31.全くもってよろしくない
「強欲な大人は、子どもだからとか、見た目、か弱い女の子だからとかいって、手加減なんかしてくれないわよ。欲にまみれた本気の大人を舐めちゃだめだからね」
ある意味、核心をついたダイレクトな警告に、子どもたちは黙り込む。
「まあ、各々、言いたいことはあるだろうが……。とりあえず、状況は把握した」
ギルド長が重い口を開く。
「…………」
「残念ながら非常に、非常に、とんでもなく不味い状況だ。全くもってよろしくない。『今のところは』冒険者ギルドが、帝国や魔術師ギルドにちびっ子たちを売ることはしないが、今日の騒ぎは、あちらさんにはばっちり伝わっただろう。できうる限りの対処はする……つもりではいる」
ルースは『今のところは』をめいっぱい強調する。
「まずは、『赤い鳥』に依頼していた明日からの合同討伐はキャンセルだ。フィリア、おい、聞いているか?」
目の前に座っているフィリアを、ルースは胡散臭げに睨みつける。
「一体、おまえは何をしているんだ?」
「ギルド長の話を聞いていますが?」
何を言われているのかわからない、とフィリアは首をかしげる。
ルースの向かいには、リオーネが座っていた。
リオーネの背後には、ミラーノとエリーがべったりとくっついている。
ぐいぐいと自分たちの胸を押し付けるようにして、リオーネをとりあっているともいえる。
女性ふたりにもみくちゃにされ、呼吸がままらないリオーネの顔色は悪い。
そして、リオーネの両隣にはフィリアとギルが座っており、それぞれの膝の上には、エルトとナニが座っている。
ナニを膝の上に載せているギルは、ガチガチに緊張しており、リオーネよりもさらに顔色が悪い。
対象的に、フィリアの表情はとても穏やかだった。
楽しそうに、エルトの頭を撫でたり、髪の毛を触ったり、抱きしめてみたりと……スキンシップがだんだん濃密なものになってきている。
エルトもエルトで、嫌がるどころか、子犬が甘えるかのように、べったりとフィリアに密着している。
そうされることを喜んでいる気配が伝わってくる。
(なんだ、この珍妙な展開は……)
ルースは頭を抱えた。
自分たちの状況をわかっているのか。
本当に反省しているのか。
子どもたちを怒りたいところではあるが、自分たちのことを正しく理解できていないから、このようなことになってしまったのである。
本人が悪い……のではなく、保護者の責任、落ち度であろう。
日を改めて仲間の『影』たちと大反省会をしなければならない、とルースは思う。
そして、ギンフウに苦言する人柱の選出も必要だ。
どうぜ、仲間内では幸運度が低い自分かフウエンがその役目を引き当てるのだ。
だが、今はそれよりも、もっと気になることがあった。
『赤い鳥』のメンバーの様子がおかしい。子どもたちに影響されたのか、らしくない。一番おかしいのは、フィリアなのだが、本人にはそれがわからないらしい。
「フィリアたちは、ちびっ子たちと面識があったのか?」
「いえ……。この子たちとは、今朝、初めて会いましたよ」
なぜ、今、ルースからこのようなことを質問されるのかわからない。
とでもいいたげに、フィリアは形の良い眉をひそめる。
そうしている間も、手はエルトの髪をいじりつづけている。
「いや、まあ。あまりにも、仲がよさそうだったからな……」
なぜ、このような会話をしているのか、ルースもよくわからない。
よくはわからないのだが、なぜか、とても大事なことに思える。
なのに、わからない。
わからないので、ルースは考えるのをやめた。
とりあえず、目の前の不可思議な光景を視界から締め出す。
見なければよいだけだ。
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