7-33.その依頼、引き受けますよ

「まあ、そういうことだ。おまえたちは、脳が筋肉の他の冒険者とは違って、バカではないからな。方法は任せる」

「…………」

「とにかく、ちびっ子だけで放置はナシだ。ちびっ子が依頼を受けたときは、メンバーの誰かが必ず、同行するように。……いや、ちびっ子が依頼を選ぶところから、ガンガン介入しろ」


 子どもの面倒は、子どもに慣れているヤツに任せたほうがよいということに、ルースはようやく気づいたようである。


「……わかりました。その依頼、引き受けますよ」


 ルースは明言しなかったが、子どもたちの監視、教育、護衛任務といったところだろう。

 まずは、常識と手加減というものを教えるところからはじめなければならない。


 フィリアは肩を竦め、仕方がないという風を装いながら承諾する。このあたりの駆け引きはフロルに教わった。


 ここは、合同討伐の一方的キャンセルを素直に受け入れ、さらに無茶な依頼をしぶしぶ請けたんだぞ……ということを強くアピールする。

 ここぞとばかりにルースに『恩』を売っておくのだ。

 売れる限りの『恩』を売っておいて、少しでも『借金』の返済を楽にしておかなければならない。


 『恩』というものは、売られる相手が『恩』として感じられる間に、売りつけておかないと、意味がないとフロルに言われたことがある。

 なので、フィリアはそれを忠実に実行に移す。

 

 実のところ、フィリアは、エルトのことが心配だったので、ルースに頼まれなくても、子どもたちの行動はそれとなく見守っていようと思っていた。


 この子どもたちを野放しにしていたら、非常に危険だと、フィリアは感じていた。

 そう思っているのはフィリアだけではないだろう。


 取り返しがつかない大事件が発生してから火消しに走るのではなく、最初から火がつかないように、『誰かが』子どもたちをしっかり見張っておく必要がある。


 その『誰かが』に、他の誰でもなく自分がなりたい……とフィリアは思った。


 とはいえ、フィリアひとりだけでは限界がある。

 なので、この流れは悪くない。

 むしろ、フィリアにとっては、歓迎すべき展開だった。


 この茶番とも言える一連のやりとりを行ったことで、フィリアは大手を振って子どもたちの行動に介入でき、子どもたちも介入を拒否することはできなくなった。

 さらに、メンバーを巻き込むことも可能になったので、人手不足で困ることもない。

 仕事として報酬も発生するとなれば、メンバーたちへの遠慮も不要になる。


 ルースは厳しいが、報酬額の設定に関してはケチではない。

 金と権力の使い所をわきまえているので、今回のコレは、口止め料込みの高額報酬になるだろう。


 また、お人好しのフィリアの選択に、メンバーが巻き込まれることになった。

 巻き込まれた『赤い鳥』のメンバーは、いい迷惑だろう。


 ルースの手前、また、交渉のテーブルについたリーダーを尊重して、メンバーは無言だったが、反対する者はいないことを、フィリアは気配で感じ取っていた。


 まあ、メンバー全員が反対したところで、フィリアは勝手に子どもたちと接触するつもりだった。


 やる気満々なリーダーに、『赤い鳥』の面々は苦笑を浮かべる。

 最初から仕事として動いた方が、自分たちが被る害は少ないだろうし、お互い納得できると、メンバーは判断したのだ。

 貧乏くじを引いてしまう体質は、メンバー全員にしっかりと染みついてしまっているようである。

 

「しっかり頼むぞ。報酬その他もろもろは、後日、トレスから説明させる」


 トレスが小さく、だが、はっきりと頷いた。


「いっそのこと、『赤い鳥』のメンバーが同行しないと、ちびっ子は依頼が受理できないように設定した方が楽か?」

「そうですね……。その設定はありかもしれませんね。あるいは『赤い鳥』に加えるという選択肢もありますが?」


 フィリアの提案にルースは考え込んだ。



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