7-22.わたしが摘んだ薬草も
バスケットの中に薬草を入れるのがよほど楽しいのか、精霊たちは競争するかのように薬草を摘み、次々と色々な薬草をバスケットの中へと入れていく。
リオーネは百三十本のあたりまで数を数えていたが、それ以上はめんどくさくなって数えるのをやめた。
薬草の数は百五十本は軽く越え、おそらく、二百本くらいはバスケットの中に入っただろう。
かなりの数の薬草を抜かせてしまったと思ったが、群生地の様子をみると、風景に変化はない。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「…………とうございます」
子どもたちは一斉に頭を下げた。
「おや? たったこれだけでよいのか? 薬草はまだまだあるぞ? 子どもというのは遠慮しない生き物だと聞いていたのだが?」
「いえ。十分すぎるくらい頂きました! 薬草採取をする時間が短縮できて、感謝しています!」
大樹の精霊は、目を細め、子どもたちとバスケットを見比べる。
「……わかった。では、わたしが摘んだ薬草も持ち帰るがよい」
そういうと、大樹の精霊は、草むらの中から光る蕾をつけた草を三本、摘み取った。
大樹の精霊は光る蕾を軽く指でつつきながら、バスケットの中に入れ、精霊みずからが蓋を閉じる。
「リオにぃ。そのバスケットは、【空間保管】の中に収納した方が、より効果が高まるような回路になっている」
「ん? ということは、おれよりもエルトが持ってる方がいいってことか?」
「そうなる」
「わかった。ボクがもつよ」
エルトは【空間保管】を発動させると、バスケットをなにもない空間に収納した。
ちびっ子たちの様子を見守っていた大樹の精霊様の顔から笑顔が消えて、真剣な表情になる。
「急かすようで悪いが……」
前置きをしてから大樹の精霊様は、リオーネに向かって言葉を続けた。
「ハーフエルフの子なら、まだしばらくは大丈夫だろうが、ここは、少々、時間の流れが外の世界と異なっている。幼い人の子が、この場に長く留まるのは、あまりよろしくないのだ」
「ふーん。そうなんだ。綺麗な場所だからちょっと探検したかったんだけど……残念だな」
「追い出すようですまないな。成人したら、また来るがよい。そなたらなら、いつでも大歓迎だ」
「わかった。そのときは、焼き菓子だけでなく、ケーキも持ってくるからな!」
それは楽しみだ。と、大樹の精霊様は笑う。人の子の成長はとても速いから、それはすぐに叶いそうだ、とも付け加える。
「それほど遠くない先に、そなたたちは我が主――精霊王――に会うときがくるだろう。そのときは、わたしの『名』を仲介に使うがよい。必ず、そなたたちの助けになるはずだ」
大樹の精霊様はそういうと、子どもたちの耳元でそっと己の名を告げる。
「我が主たちの機嫌を損ねることは、あまりしたくはないのだが、これくらいなら許してくれるだろう。そなたらが理不尽にも『奪われたもの』には遠く及ばぬが、試練を乗り越える足しにするがよい」
愛おしそうに、大樹の精霊様は子どもたちの頭を順番に撫でていく。
精霊の祝福が優しい光となって、子どもたちを包み込む。
それを真似るかのように、小さな精霊たちも、ペタペタと子どもたちに触れていった。
「く、くすぐったいな」
「女の子のここは触っちゃダメ」
「あったかい」
小さな精霊たちは子どもたちの周囲を漂いながら、美しい歌をうたいはじめた。
その典雅な音色に、大樹の精霊様の声が重なる。
大樹の精霊様は美しい声で祝福の言葉を紡ぎながら、リオーネ、エルトの順番できゅっと抱きしめていった。
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