7-21.好意には好意を返すのが
光の粒がふわふわと漂い、引き寄せられるように食べ物にあつまっていく。
岩の上は、眩いばかりの光の粒子で覆われていた。と、同時に食べ物がどんどん減っていく。
そのきらびやかな光景にしばしみとれていた子どもたちであったが、リオーネがいちはやく、重大なことに気がついた。
「やべぇ! ぼーっとしてたら、おれたちの分まで全部、精霊たちに食べられてしまうぞ! 急げ!」
リオーネがパンにかじりつく。
ナニとエルトも慌てて「いただきます」をすると、手近なサンドウィッチを手にとり、食事をはじめた。
大樹の精霊の眷属はとても多く、大量に用意されていた軽食は、あっという間になくなってしまった。
おやつ用に用意されていた焼き菓子も、弁当に負けないくらいの量があったのに、これも小さな精霊たちが、驚くほどのスピードで食べつくされてしまった。欠片すら残っていない。
「すげー。あの量が一瞬で片付いた!」
「精霊さんって、とっても食いしん坊なんだね……」
「っていうか、精霊って、こんなにたくさんいるものなのか? おかしくないか?」
「そうなの? ここが綺麗な場所だから、精霊さんがたくさん住んでいるんじゃないの?」
バスケットがとても気になるナニは、リオーネとエルトの会話に加わってこない。
ナニは早々に食事を終えると、バスケットの蓋を開けたり、閉めたり、ひっくり返したりと、色々と忙しそうだった。
お弁当と焼き菓子を食べた小さな精霊たちは、さきほどよりも、光が強くなり、よくよくみると、小さな人の形になっていた。
不思議がっている子どもたちに人の食べ物を食べて、力が増したのだと大樹の精霊様は教えてくれた。
そういえば、大樹の精霊様もなんだか輝きが神々しくなり、あったときよりも、存在感と人間味が増したような気がする。
「ごちそうさま。とても美味しい食べ物だったよ。こんなに美味しい、人間の食べ物を食べたのは初めてだ」
「喜んでもらえたのなら、おれたちも嬉しいよな」
「うん。リョクランも喜ぶ」
「ありがとう。では、食事の礼をしなければならないな」
「いや、お礼なんて……」
リオーネは「いらないよ」と言って、ぶるんぶるんと首を左右に振る。
「人の子よ。それはダメだ。これは世の理なのだ。好意には好意を返すのが、世の道理だ」
大樹の精霊様は、真顔でリオーネの言葉に反論する。
「ヨノドウリ? いや、そんな、難しいことを言われても。薬草を摘ませてくれたらそれでいいよ」
「ふむ。薬草はどれくらい必要なのだ?」
「百五十本」
「……………………う、うむ。百五十という量は、我らにはよくわからぬが、その、弁当が入っていたバスケットやらの中に入るだけのものを、我らは返そう。それが道理だ」
なにがなんでもお礼を返さないといけないと主張する大樹の精霊をみて「なんか、精霊の世界も、オトナの世界と同じで、世知辛くて大変そうだな――」とリオーネは思った。
大樹の精霊様が合図を送ると、小さな精霊たちが「わ――っ」「は――い」とか言いながら一斉にちらばった。
美しい光の粒がキラキラと虹色に輝きながら浮遊している。
しばらくすると、薬草を大事そうに抱えた精霊たちが、ふわふわと漂いながら岩場に戻ってくる。
精霊たちはバスケットの中に、つぎからつぎへと薬草を入れていく。
「すごい!」
「なんか、薬草も光ってないか?」
「精霊の気配が、薬草にもくっついているみたいだよ?」
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