7-20.どう考えても、多すぎるぞ

「ほう。これが、人の子が食する弁当というものか……。見かけによらず、人とはよく食べる生き物のようだな……」


 岩の上に広げられたお弁当の数々を前に、大樹の精霊が嘆息する。


 色とりどりの具材が挟み込まれたサンドウィッチやバーガーを中心に、軽くつまめるものや、チキンや肉を串焼きにしたものなど、子ども三人分の食事とは思えない量の料理が、あふれかえらんばかりに広がっている。


 リオーネとエルトは、豪華すぎる弁当を前に途方に暮れていた。


「いや……これ、どう考えても、多すぎるぞ」

「リオにぃ、これはもしかしたら、一週間分の食料じゃないのかな?」

「おれたちに一週間も野宿しろって? それはない。絶対にないって」

「そ、そうかなぁ……でも……」

「リョクランに限って、外泊をすすめするなんてありえない。一週間もエルトが帰らなかったら、ギンフウがめちゃくちゃ怒るぞ。はりきって、リョクランがはりきりすぎて作りすぎただけだろ?」


 エルトの推測を、リオーネは即座に否定する。


「リオにぃ、一度バスケットから出したものを、再度、入れ直すと、品質保持の効果がなくなる模様」


 弁当よりも魔道具のバスケットの方が気になって仕方がないナニは、バスケットに組み込まれている魔導回路を解析したようである。


「ってことは、バスケットからだしてしまったものは全部、残さず食べないといけないのか?」

「どうしよう……。食べ物を残すとリョクランに怒られるよ?」

「うーん。そうだよな。リョクランって、食べ物を粗末にしたら、めっちゃめっちゃキレるから厄介だよなぁ……」

「嫌いなものが一週間も続くのはやだよ」

「おれだって、そんな食事メニューはいらない」


 自分たちの周りにいる大人たちは、キレると性格が激変する。ガチでヤバいやつばかりしかいない……。


 あの、存在感の薄いリョクランも、食事を残したりしようものなら、烈火の如く怒りまくる。

 リオーネは「うーん」と唸りながら考え込んだ。


 エルトもリオーネの真似をして「うーん」と声をだしながら、コテっと首を傾げる。

 コクランが精霊を使役したとき、お礼といって、精霊にお菓子や砂糖の固まりなどをあげていたのを、エルトは不意に思い出していた。


「大樹の精霊様も、一緒に、ボクたちのお弁当を食べますか?」


 エルトの質問に、大樹の精霊の顔がぱっと輝いた。

 どうやら、とても喜んでいるようだ。


 小さな精霊たちは、甘いものが好きだとコクランは言っていた。そして、人間の食べ物をわけると、とても喜ぶとも……。


 目の前の大樹の精霊様は、普段、コクランが使役している小さな精霊とはあきらかに『格』が違うが、精霊は精霊である。


「よいのか? 本当に、『お弁当』を食べてよいのだな?」

「うん。エルトが言うんだから、食べていいぞ。おれたちだけでは食べ切れない量だから。遠慮しないでくれ」


 リオーネの言葉に、大樹の精霊の顔がさらに輝く。文字通り、周囲がキラキラと眩しく光り始めた。


「ありがたい。わたしだけではなく、わたしの眷属たちにも、お弁当をわけてもらえないだろうか?」

「あ、ああ……どうぞ」

「焼き菓子もあるよ」

「それは嬉しいな! ありがたい!」


 大樹の精霊様の言葉が終わるやいなや、どこからか小さな光が、次から次へと現れ、わらわらとリオーネたちの周囲、いや、弁当に集まり始める。




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