7-19.薬草を摘みにきたんだけど、その前に……
大樹の精霊が笑うと、光の粉の輝きが増し、視界が眩しくなる。
「ところで、小さな子らよ。この地には、何用で参った? ここには目的がない者は、入ることはできぬ場所だぞ?」
大樹の葉が欲しいのか? それとも樹液か? 泉の水を汲みにきたのか? と矢継ぎ早に質問される。
暇をもてあましていたのか、なかなかフレンドリーで親切な精霊である。
「薬草を摘みにきたんだけど、その前に……」
「ん?」
「ここで、お弁当を食べていいですか?」
「…………は?」
つくりものめいた精霊の顔が、一瞬、呆然となる。
固まってしまった精霊を前に、ナニとエルトが慌てる。
「ちょ、ちょっと……。リオにぃ、こんな綺麗な場所で、お弁当なんか食べちゃだめだよ」
「……いや、でも、そろそろお昼ごはんを食べないと、怒られるじゃないか! 子どもは、規則正しい生活をしないとダメなんだぞ! 大きくなれないんだぞ!」
「リオにぃ、だとしても、それは大変失礼な申し出。即刻、訂正を求める。謝罪が必要」
「え――。だって、こんなキレイで落ち着く場所なんて、めったにないぞ。そこでお弁当を食べたら、最高じゃん。きっと、楽しいし、素敵な思い出になるだろ?」
「そ、……そうかもしれないけど……」
リオーネの主張にナニとエルトは困惑の表情を浮かべる。
たしかに、こんな綺麗で不思議な場所で美味しいお弁当を食べたら、楽しいに違いない。と思うようになる。
「ふははははは」
突然、精霊が大きな声で笑い転げる。
大樹がざわざわと揺れ、光の粉が光の粒とかわり、空気中をサラサラと舞い始める。
澄んだ空間が、さらに透明度を増していく。
「いやぁ。愉快、愉快! そうだな。人の子は、腹が減ると、なにもできないのであったな。失念していた」
(いや、そうでもない人もいっぱいいるけどな……)
リオーネの脳裏に、リュウフウやボスをはじめとする、大人たちの顔が浮かぶ。
彼らはいとも簡単に睡眠を削ったり、食事を抜いたりする。
三食、しっかり食べろとうるさいのは、弁当を用意してくれたリョクランぐらいだ。
しかし、それをわざわざ初対面の精霊に説明する必要もないだろう。
「わかった。わかった。食べてもよいぞ。泉のあちら側に大きな岩があるのだが、そこなら、腰を掛けることもできる。弁当とやらを広げて食べる場所に最適だろう」
精霊が指差した先を追うと、たしかに、岩があった。
「ありがとうございます。メシだ、メシだ! エルトいくぞ!」
「あああ、うん」
リオーネに半ばひきずられるようにして、エルトが岩の方へ連れられていく。
「……大樹の精霊様の寛大なお心に感謝します」
深々と頭を下げるナニに、精霊はにっこりと微笑んでみせる。
「そこまでかしこまる必要はないぞ。キレイだと、稀有な子らに心から褒められれば、悪い気はしない。わたしは楽しいことが好きだ。人の子が食べるという弁当にも興味がある」
早く追いかけねば、あのふたりに弁当を食べられてしまうのではないか? と精霊に言われる。
ふたりに限ってそんなことはないのだが、精霊のお言葉に甘えて、ナニもエルトたちの後を追った。
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