7-18.で、ここはどこなんだ?

 冒険者登録を無事に終えた子どもたちは、まず、面倒くさい薬草摘みから片付けることにした。


 場所の選定は、エルトにお任せ。

 エルトが行ってみたいと思う場所に、ふたりは同行するつもりだった。


 そして、転移先にエルトが選んだ場所は、美しい泉が湧き出る薬草の群生地だった。


 泉の側には、輝きを放つ不思議な大樹が生えており、風がその葉を揺らすたびに、キラキラと光の粒子を散らしている。


「……で、ここはどこなんだ?」


 リオーネの質問に、エルトは「知らない」と答えた。「帝都付近で薬草がいっぱい生えていそうなところに転移したの」と説明を加える。


「わからないなら、仕方がないな。嫌な感じはしないし……ま、いいか」


 ギルド長がこの場にいたら「もっと気にしろ!」と激怒しただろうが、リオーネはあまり細かいことにはこだわらない。


 ナニとエルトに危害が及ばなければ、たいがいのことは無条件で許してしまう。

 というか、深くは考えない。


 リオーネは周囲に注意を払いながら、光り輝く木の方へと近づいていく。

 彼の後をナニとエルトが追うような形で、とことことついていく。


「それにしても、すっごくキレイな木だよな。こんなキレイな木、初めてみた」

「同意」

「リオにぃ、ナニねー。ここ……精霊の気配がいっぱいするよ」

「あー言われてみれば、そんな感じもするよな。空気が違うな」


 子どもたちはキョロキョロと珍しそうに周囲を観察する。


「ようこそ。小さな客人たち」

「…………!」


 不意に光り輝く大樹から涼やかな声が聞こえ、樹下に人が出現する。

 それは人の形をしてはいるが、人ではない気配をまとっていた。


 切れ長の目、高い鼻梁、形のよい唇、ひとつひとつが作り物のように完璧で、とても整った美貌の持ち主である。


 艷やかな長い髪は白く輝き、ほっそりとした体躯はとても儚げで、男性なのか女性なのかよくわからない。


 装飾の類は一切なく、一枚の長い布を、身体にまきつけるようにして、身につけているだけだった。

 うっすらと、身体が透けてみえる。


「おおおっ!」


 よほど驚いたのか、リオーネが飛び上がって反応する。


 ナニとエルトはぽかんと口を開け、大樹の前に現れた、人のようなものを見つめた。


 リオーネの派手な反応に、人のようなものは、面白そうな笑い声をたてた。


「今回の客人は、ずいぶん、小さく、賑やかだな……。実に面白い。古からの盟約により、ハーフエルフの子とその兄弟の来訪を歓迎しよう」

「木の精霊?」


 ナニの質問に、人のようなものは「そのようなものだ」と頷く。


「失礼いたしました。寛大なこの地の守護者に感謝を」


 ナニはフードをとると、両手でローブの裾を軽く持ち上げる。片足を斜め後ろに引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、丁寧にあいさつをする。


「感謝を」

「……感謝を」


 エルトは懐からヘアピンをとりだして、長い前髪をかるくまとめた。

 そして、リオーネと同じように右足を後ろに引きながら、右手を胸にあて、左手を後ろに回し、ゆっくりと腰を折る。


「うむ。なかなか礼儀正しい子らだな。しかも、いきなり、わたしがいるところまで一気に【転移】した、肝の座った者たちは初めてだ」

「……ありがとうございます?」


 嫌味ではないだろうが、褒めてもらっていると受けとってもいいだろうか?

 リオーネの疑問形の返答に、大樹の精霊は楽しそうに笑った。



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