7-23.せめて数くらい

 最後にナニを抱きしめると、光り輝く大樹の精霊様は、少女の心に言葉を残す。


「ハーフエルフの子には、特別に、植物を慈しむ力を与えよう。そなたが持っていた『銀鈴蘭の癒し』には遠く及ばぬが、これで兄弟を支えるとよいだろう」

「…………」


 大樹の精霊様は、驚くナニの額に軽くキスを残す。


「ありがとうございます」

「感謝いたします」

「ありがとう……ございます」


 なんと、弁当を食べただけで、薬草採取のクエストが完了してしまった。

 薬草採取という、ぶっちゃけ『草むしり』という面倒な作業……苦行を回避できた子どもたちは、とても喜んだ。


 無邪気に喜ぶ子どもたちを眺める、大樹の精霊様も満足そうに頷いている。


 大樹の精霊様と小さな精霊たちにお礼の言葉を述べると、子どもたちは上機嫌で、次の目的地へと【転移】したのであった。


 ****


「……なかなか、衝撃的な話だな」


 ルースは長い溜息の後、ぽつりと呟いた。眉間には、さらに深い皺が刻まれ、全身にどんよりとした空気をまとっている。


 とりあえず、「第一部・完」というところだろうか。

 この後は、さらに、ゴブリン退治の話が控えている。


 薬草の質がやたらよい理由や、希少種の薬草が大量に紛れ込んでいた謎は解けた。


 光の大樹の元で育った薬草に、精霊たちが手づから摘み取り、それに祝福をほどこした薬草……。

 さらに、それを鮮度保持の魔道具に入れて保管していた。


 これが市場に出回れば大騒ぎになる。

 いや、すでにギルド内は、大騒ぎになっている。

 正規ルートではさばけないものが、大量にありすぎた。


 査定責任者からの報告書によれば、子どもたちが持ち込んだ薬草の本数は百五十本ではなく、その倍の三百本だった。


(せめて数くらい、ちゃんと数えてくれ……)


 と、心の中で嘆く。

 とりあえず、子どもたちには、早急に基礎教育の研修を受けさせねば、今後も大変なことになるだろう。


 どうして、今まで、誰も子どもたちに一般常識を教えなかったのか、不思議でならない。


 ひとりくらい、『影』の常識ではなく、『一般人』の常識を教えようと思った者はいなかったのか……。

 自分のことは棚に上げて、ルースは仲間の不手際を心の中で思いっきり罵る。


 さらに、エリクサーの原料となる高品質の銀鈴蘭が三株紛れ込んでいた、という報告が、ルースをさらなるどん底に突き落としたのである。


 おそらく……いや、絶対に、大樹の精霊様とやらが摘んだ薬草がソレだろう。間違いない。


(銀鈴蘭の採取自体が、超級冒険者向けの高難易度依頼なのに、どうしてくれるんだ……。どう誤魔化せと?)


 いや、美味しい弁当や、珍しい菓子をあげたとしても、それくらいで精霊はそう簡単に銀鈴蘭を人間に与えることはしない。


 大樹の精霊様は、このちびっ子たちの誰かを特別に気に入ったのだろう。

 いや、全員まとめて、気に入ったのかもしれない。


(……ありえない話ではないよな)


 なにしろ、堕ちているとはいえ、神に捧げられそうになった子どもらだ。

 ヒトを超えるモノたちに寵愛される要素があるのだろう。


 惑わしの森の中心部で、光の大樹を発見した。

 人型に変幻できる上位精霊に出会った。

 精霊の祝福を受けた。

 精霊王への謁見権利を得た。


 子どもたちは、とても濃密なランチタイムをすごしたようである。



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