7-6. できるだけゆっくりでいいんだが……
「……………………非常に、不本意だが、査定作業を再開しろ。ただし、正規ルートではなく、トレスの指示に従うこと。この件に関する処理は、トレスに任せてある」
「うむ」
「結果は、受付に戻す前に、トレスにあげろ。トレスの方から、結果を受付に通達する。いいな、トレスだ。それが条件だ。忘れるなよ」
ギルド長は秘書の名前を、何度も何度も連呼する。
これだけ連呼すれば、慎重に対処してくれるだろう。
ドワーフの査定責任者は「承知した」とにやりと笑ってみせた。ギルド長の心労を察したような意地の悪い笑みだった。
重苦しい空気を振り払いたいかのように、ドワーフはパンパンと手を叩いて、部屋の奥に呼びかける。
「おーい。待たせたな。もうでてきていいぞぉ。作業再開だ。超特急案件だ。しかし、丁寧かつ正確にな!」
(いや、できるだけゆっくりでいいんだが……)
ルースの心の声は査定責任者に届かない。
声にだしたとしても、聞き流されるだけだ。
ドワーフの声を待っていたかのように、扉が開き、奥の作業場から査定職員たちが、ぞろぞろと姿を表す。
なぜか、素材解体職員たちの姿も混じっていた。ゴブリンの耳をカウントするための応援要員なのだろう。
テーブルの上に載っているモノをみて、みな、一応に目を見開き、驚いている。
「すげー。ゴブリンの魔物石がこんなにたくさん!」
「おい、みてみろよ! この薬草! めちゃくちゃ品質がいいぜ」
「おおう。こんないい薬草、帝都で見るなんて、久しぶりじゃねえか?」
「いろんな種類があるぜ。おっ、希少種みっけ!」
「マジか、この大量の耳……。全部鑑定するのかよ……」
「ゴブリン相手に、手加減一切なしか。どんな炎系統の魔法を使ったら、こうなるんだ? こんなに焦げて……本体は消し炭になっちまったんじゃねえのかよ」
口々に叫ぶ職員たちを、素材解体責任者と査定責任者が交互になだめ、それぞれの査定物に対して指示をだしていく。
疑問を口にしながらも、不満はでてこない。職員たちは目を輝かせながら、いそいそと査定作業にとりかかる。
珍しい薬草、大量の魔物石にテンションが爆上がりだ。作業員たちの楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。
「やれやれ……」
疲れた表情のギルド長は、やる気に漲る職員たちの姿にため息をつく。
本日の業務は終了したとか言って、査定は明日……とならなかったとこに未練が残る。
あの一致団結した様子だと、査定にさほど時間はかからないだろう。
ルースの切なる願いは無残にも聞き届けられず、本日中に査定結果が届きそうだ。
そのことを誠に遺憾だと思いながら、ルースは、硬直している『赤い鳥』と、彼らに捕獲されている子どもたちへと視線を流す。
「ついてこい」
ギルド長は吐き捨てるように言い放つと、活気に溢れかえった査定受付場を退出する。
その後を秘書のトレスが続き、子どもたちを連れた『赤い鳥』が続いた。
しばらく廊下を進むと、ギルに抱えられたナニがバタバタと足を動かし、暴れ始めた。
「頼むから、暴れないでくれ……」
先を歩くルースギルド長に聞こえないように、ギルは小さな声でナニに懇願する。
ここで逃げられたら、さらに騒ぎとギルド長の怒りが大きくなる。
が、ナニの抵抗はますます激しくなり、そのうちに足蹴りが、ギルに当たるようになる。
たいして痛くはないのだが、思わず顔をしかめてしまう。
「ちょっと、ギル。あんた、空気よみなさいよ。女の子に対して、そんな扱いしてたら、暴れられるにきまってるじゃない」
みかねたミラーノが小声で注意する。
「は?」
ギルの顔に「?」マークが浮かぶ。
ミラーノとエリーの口から同時にため息が漏れた。
フィリアとギルは、同じ孤児院出身の幼馴染だという。
両方とも赤ん坊の頃に、孤児院前に捨てられており、両親の顔はもちろん、自分がどこの生まれかも知らない。
名前も、生みの親ではなく、孤児院の院長先生がつけたという。
育った環境や境遇は同じだというのに、どうして、こうも違うのだろうか……。
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