6-9.アレは人員としてカウントできない……
冒険者ギルドが発行した冒険者カードは、領地間、国家間の移動の際に、身分証として絶対的な効果を発揮する。国境や境界などあってないようなものなのだ。
なぜなら、冒険者ギルドは、各国が独自に運営している国ごとに結成されている組織ではないからだ。
国境を越え、世界にネットワークを広げる単独独立組織として君臨している。
そのおかげで魔獣襲来時には、国境線を無視したスムーズな支援連携ができるのだ。
冒険者ギルドの管轄地域では、冒険者の冒険者としての身元が保証されている。
見た目は『怪しい奴』であっても、冒険者カードを提示すれば、『怪しくて小汚い冒険者』となる。
それくらい冒険者ギルドは信頼されている組織だ。
その信頼を維持するために、各地域、各国の冒険者ギルド長は細心の注意を払っているから当然の結果である。
過去、そうでないギルド長、副ギルド長が就任したときは、冒険者ギルドは大変なことになってしまった。
なので、どうしても人選は慎重になってしまう。
いつまでもヒトがいないと嘆いていても先に進まないので、ルースは金庫書庫に偽造登録用紙を封印した後のことを思い出してみる。
……血を派手に吐き散らかしながらも、ルースは命がけの作業をなんとか終え、作業終了時にまた回復薬を飲んだ。
薬を飲み、気が緩んだところで、ルースはそのまま気を失った……というわけだ。
(機密文書が机の上に残っていた……というお間抜けな状況は、なんとか回避できたわけだな)
最悪な事態ではなかったことに、ルースはほっと胸をなでおろす。
まだこの段階で優秀な専属秘書を、口封じなどで失うわけにはいかなかった。
「ギルド長。今日は、いつも以上に、とてもお疲れのようですね」
「そうだろうな……」
トレスの言葉にルースは深く頷いた。
(常軌を逸脱した装備に身を包んだちびっ子たちを見ただけで、疲れが倍増した……)
今後、あの装備のちびっ子たちが冒険者ギルドに出入りするのかと考えただけで、ルースの胃が痛みを訴えてくる。
(ギンフウに自分が担当している冒険者ギルドの方にも人員を補充して欲しい……とは言った。確かに言ったけど、アレは人員としてカウントできない……)
どうしたものかと、悩み多きギルド長は頭を抱えた。
「午後の予定は、明日にでも変更可能です。ギルド長は暫くお休みになられてはいかがでしょうか? それとも、このままご帰宅されますか? 仮眠室の方も整えておりますが?」
手元のファイルを確認しながら、ギルド長の専属秘書が提案する。
若い男性秘書……といっても、ハーフエルフなので、実際の年齢はよくわからないのだが……。
トレスはエルフの血をひいているだけあって、容姿は整っており、全体のつくりがとても繊細である。
陶磁器のような白く曇りのない肌、特徴的な細長い耳。短い若草色の髪は、艶やかで細部まで手入れが行き届いている。
切れ長の深い緑の瞳が、心配そうな色を帯びて、ルースを覗き込んでいた。
「ああ……。それは助かるな」
ルースはくらくらする頭を抑えながら、ゆっくりと立ち上がった。ここで変な根性をみせても無意味だ。
休めるときには休む。
バランスを崩しかけたところを、トレスに横から支えられた。
どうも、昨日から今日にかけて、血を失いすぎたようだ。
「……仮眠室にいる」
このまま帰宅するのはまずいと、本能が警告を発している。
ここの仮眠室の方が、ギルド長の自宅よりもセキュリティが充実している。安心してゆっくり休めるだろう。
「わかりました。お運びいたします」
「…………」
涼しい顔のまま、細身の秘書はひょいとルースを抱き上げる。
横抱き……お姫様抱っこだった。
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