5-3.ちゃんとギルドの説明を聞いてたか?
まあ、終始そんな調子で、長々とルール説明が続いたのだ。
あまりにも長い説明で、内容は覚えていない。思い出せない。
冒険者登録の立会人になるのは面倒だから嫌だと『赤い鳥』が言っていたのは、この長々とした説明を一緒に(神妙な顔をして)聞かなければならないからだろう、とリオーネことハヤテは思った。
あんな長い説明をじっと聞き続けないといけないのなら、自分だったら、立会人にはなりたくない。あれは嫌がらせレベルだ。
立会人がいなければ、説明不要と言い切って逃げることもできたらしいが、立会人がいたので、最後まで受付嬢の説明に付き合うこととなったのである。
己の運の悪さ、フィリアのおせっかいにリオーネは苛立ちを募らせる。
「ナニとエルトは、ちゃんとギルドの説明を聞いてたか? おれは聞いてなかったからな!」
堂々と宣言することでもないのだが、念のためにリオーネは宣言する。
「……一応、聞いてたよ……」
明後日の方向を向きながら、エルトが答える。
(あ、これは、意識が別の方にいってたってやつだな)
人肌のぬくもりにほだされて、フィリアの膝の上で、うつらうつらしていたエルトの姿を思い出す。
エルト――セイラン――はギンフウの膝の上でもよく眠っていたが、さっきもほぼそれと同じだった。
無防備な寝姿が可愛いな、とは思ったが、アレでは聞いているはずがない。
「冒険者規則に書かれている内容以上の説明はなかった。真面目に聞くだけ無駄」
ナニは容赦なくばっさりと切り捨てる。
(受付の姉ちゃんが可哀そう……)
自分も全く聞いていなかったことは棚にあげ――あの巨乳に両側から挟まれた状況で聞けるはずもないのだが――ペルナを哀れに思うリオーネであった。
****
ナニとエルトがちゃんとついてきているのを確認しながら、リオーネはできるだけ賑やかな通りをさけて、人通りの少ない路地を選んで進んでいく。
冒険者ギルド内では、ちょっとばかり失敗して目立ってしまった。保護者たちからはできるだけ目立たないように行動しろ、と釘をさされている。
もう、これ以上、無駄に目立ってはいけない……。
「リオにぃは、お姉さんたちに挟まれて、嬉しかった……?」
「――――!」
予想していなかったエルトの質問に、リオーネが狼狽える。
「……いや、あれは、ちょっと……。嬉しいってことじゃない。柔らかくて、いい匂いがして、気持ちよ……いや、いや、息ができなくて……困ったってとこかなぁ。そう。『困った』だ! 嬉しかったのは、エルトの方だろう?」
リオーネの言葉にエルトは沈黙し、しばし考え込む。
「あれが、嬉しいってこと?」
「違うのか?」
「違わないの?」
こてんと首を傾けたときに前髪が揺れ、美しく整った顔が、頭二つ、いや三つ分、背の高いリオーネを見上げる。
濡れた黒い瞳は、どこまでも深くて底が見えず、虚ろで、感情という光がない。
見慣れているはずなのだが、真正面から見られると、どうも落ち着かなくなる。
エルトは、もう少し、前髪の量を増やした方がよいのではないか、と、全く関係ないことをリオーネは考えてしまう。
「エルトは、アノ『赤い鳥』のリーダーと一緒にいて、嫌だったか?」
少しの間があったが、リオーネの質問にエルトは「嫌じゃなかった」とふるふると首を横に振る。
「いつものエルトなら、『わからない』って答えてたと思うぞ」
「…………そうだね」
「エルトは、また、あのリーダーに会ってみたいと思うか?」
「思う」
今度は即答だった。
エルトの頬がほんのりと紅く上気している。
そういえば、エルトの顔色がいつもよりもいい。白磁器のように真っ白だった顔に生気の色がにじんでいる。
***********
お読みいただきありがとうございます。
フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。
***********
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます