3-26.今日からキミたちも、ぼくらと同じ冒険者だ

 昔を懐かしむペルナに代わり、フィリアが口を開く。


「おめでとう。今日からキミたちも、ぼくらと同じ冒険者だ」

「がんばれ」

「オメデト――」

「機会があれば、一緒にお仕事しましょうね――」

「無理せず、慎重に行動しろよな」


 『赤い鳥』のメンバーたちが、順番に子どもたちに向かって祝辞や励ましの言葉をかける。


 小さな冒険者たちは、そのひとこと、ひとことににコクコクと頷いて返事をする。


「これは禁止事項じゃないからギルドは説明しないけど、他人のステータスを見せろと強要することは、マナー違反というか、相手から反感を買う確率が高くなるから、十分に気をつけるんだよ」

「わかった」

「依頼人から言われたとしても、拒否できる権利があるし、それでどうこうなったら、ギルドに報告するんだよ?」


 うるさいくらいの忠告に、リオーネは面倒くさそうに頷く。


(大丈夫かな……?)


 さっきの登録用紙流血大惨事がフィリアの脳裏をよぎる。

 どうも、この赤髪の少年は信用できそうにもない。


「心配無用。わたしがしっかり管理する」

「あ……ああ。そうだね。キミにまかせておけば大丈夫そうだね」


 フィリアの懸念を悟ったのか、ナニがポツリと呟く。

 なにをしっかり管理するのかは、あえて触れないでおいた方がよいだろう。


「ガキども、舞い上がって自分のステータスをむやみやたらと教えまくるんじゃないぞ。そういう情報は大事なんだ。パーティーメンバーとか信頼できるやつだけにしておけ。それが、世渡りのコツさ。ま、ギルドには筒抜けだけどよ」


 老婆心とでもいうのだろうか、ベテラン冒険者のカンとでもいうのだろうか。

 フィリアとフロルが口々に、浮かれ騒いでいる子どもたちに注意を促す。


「登録用紙は当ギルドで、責任をもって保管いたします。冒険者名簿にファイリングしますが、ファイリングされた瞬間から、ステータスと同じ項目が登録用紙に表示されるようになります」

「その紙、捨てるんじゃないんだ……」

「登録用紙は使い捨てではない。『控え』の役目がある」


 無知なリオーネをナニが叱りつけるが、この場合はリオーネの方が『正しい反応』だ。


「ナニちゃん、詳しいのね――」

「ナニちゃんてば、物知りなのね――。すごいわっ」


 ミラーノとエリーは目をまんまるに見開いて驚いている。


「登録用紙に浮かび上がった情報は、大事な個人情報です。ギルドが会員の実力把握と生存確認に使用するだけです。正当な理由がない限り、部外者の閲覧はございませんから、安心してください」


 正当な理由があれば、あっさり開示するということだ。


 ギルドはしたたかに色々な抜け道を用意しているが、冒険者として始めの一歩をふみだした純真無垢な子どもたちが知る必要もない。


 無料登録でこれだけの魔導具が消費されるのだ。

 なにかしらギルド側にも見返りがないと、冒険者ギルドが成り立たなくなるだろう。


「ドッグタグの方は、ご自身で管理してくださいね。もし、紛失したり、破損した場合は、いかなる理由であっても、ランク降格、再発行手数料が発生いたします」

「…………」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよん」


 魔術師のミラーノがカラカラと笑い声をあげる。


「ドッグタグも、このチェーンも魔道具だから、寝る時も、お風呂に入る時も、肌身離さずつけてたら、なくなることはないからね。チェーンの方は、新人さん向けの安価なものだから、ランクに応じて買い替えていったらいいよ」


 ウィンクしながら、回復術師のエリーがドッグタグ――冒険者カード――について説明をする。


「そうそう。外さなければ、なくならないよ。それよりも、お姉さんが、タグをつけてあげるよん!」

「あっずるい! リオーネちゃんのタグはあたしがつけるんだから!」



***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る