3-22.血を一滴★
「では、準備もできました。わたしはこのように、魔力を遮断する手袋を身につけております」
ペルナは手袋をはめた両手をパッと広げ、子どもたちに見せる。
まるで、手品師が「種も仕掛けもございません」と口上を述べるかのような……胡散臭さだ。
「わたしの魔力がみなさんの登録を妨害することはありません。ご安心ください。これから登録用紙と専用のペンを配ります。登録用紙もペンも、他人に触れさせないようにお願いしますね……」
子どもたちの前に、登録用紙と専用のペンが配られる。
登録用紙は魔力が染み込んだ羊皮紙で、うっすらと魔法陣が刻印されている。
専用のペンは羽ペンで、羽の部分が虹色に光っていた。インクをつける必要がなく、そのまま登録用紙に文字を書くことができると、ペルナは説明する。
「では、用紙に自分の名前を……『ギルドに登録したい名前』を書いてください。文字が書けない場合は、代筆もいたします」
偽名を使いたいとか、身分を隠したい人を考慮してのことだろう。
子どもたちはペンをとり、たどたどしい手付きで、己の名前を登録用紙に書き込んでいく。
自分たちが名乗った名前と同じ文字が、登録用紙に記された。
(にゃんか、子どもとは思えにゃいくらいの達筆にゃ)
そこらの大人の冒険者よりも綺麗な字だったことに内心では驚きながらも、ペルナは次の作業へと意識を向ける。
役目を終えた羽ペンをさっさと回収し、銀色の小さなナイフをこれまた人数分とりだす。
こちらのナイフにも魔法陣が刻まれていた。
「では、こちらのナイフを使って、登録用紙の上に、血を一滴、落としてください。このナイフも、他の人は触らないでくださいね」
ナニとエルトは指示通り、銀色のナイフを手にとると、利き腕とは反対の親指に切り込みを入れ、登録用紙の上に血を一滴たらす。
が、ここで想定外の事件が起こった。
****
ペルナの甲高い悲鳴が、一階のフロアに響き渡る。
いくつもの視線が、ペルナへと注がれる。
「きゃー! ち、血が! 血がっ! めっちゃでてるにゃ! リオーネくん、ゆ、指は大丈夫かにゃ! ちゃんとついてるよねにゃ! リオーネくん、ち、血はそんにゃ、にゃ、に必要ないにゃん!」
銀のナイフがぐっさりとリオーネの指に突き刺さり、そこから血がぼたぼたと落ちていた。
真っ赤になった登録用紙を見て、青ざめた顔で「血が! 血が!」と、パニックをおこすペルナ。
助けを呼ぼうにも、受付嬢で出勤しているのは自分ひとりである。
全く予想していなかった展開に唖然としているフィリアに変わり、真っ先に行動をおこしたのは、『赤い鳥』の中で最年長にあたるフロルであった。
「なにやってんだ! 馬鹿野郎!」
こういう無茶をする子どもは、しつけが必要とばかりに、まずは、大きな雷をひとつ落とす。
「待て、待て! 小僧は動くな! おい、他のガキどもも、何もするな! 動くな! しゃべるな! エリー回復魔法だ! 登録用紙に気をつけるんだぞ」
「……わ、わかった。わかってる。フロル、わかっているから安心して。わたしは、そんなヘマはしないよ!」
フロルの指示に、エリーがあたふたと回復魔法を唱えた。
リオーネの指先がほんのりと光に包まれ、開いていた傷口がゆっくりと閉じ、ぼたぼたと流れ落ちていた血も止まった。
その様子を見届けると、大人たちは一斉に大きな溜息を吐き出した。
「ったく……。これだからガキは……」
頭をガシガシかきむしりながら、フロルが口の中でブチブチ文句を並べ立てる。
「にゃ、にゃんで、こうにゃった……?」
ペルナは天井を仰ぎながら、呆然と呟いた。
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――物語の小物――
『リオーネの登録用紙』
https://kakuyomu.jp/users/morikurenorikure/news/16818023212212734709
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