3-15.ゴホウビ……?
フィリアはルースギルド長から個人的に、ランク下の冒険者へのアドバイスを頼まれていた。
今回もその延長で口をだしてきたのだろう。
ただ、いつもなら相手のプライドを尊重して、フィリアのアドバイスはさりげなくて控えめだ。世間話に上手く、巧みに織り交ぜながらこそっと呟く程度。控えめすぎるくらいで、アドバイスに気づかない冒険者も多い。
なのに、今日のフィリアは、らしくもなく『先輩』を強調して、割り込んできて、強引に話をすすめてくる。
フィリアの性格からすると、冒険者になるのをあきらめるよう、やんわりと辛抱強く説得すると思ったのだが、子どもたちを後押しするような提案に、ペルナは仰天していた。
(にゃ、にゃにかの……天変地異の前触れかにゃ?)
慌てて相棒であるギルの方へと顔を向ければ、彼もまた目をパチパチさせて、フィリアの予想していなかった発言に驚いている。
フィリアもペルナと同じで、子どもたちの幼さに危機感をいだいているのかもしれない。と、ペルナは自身を納得させる。
子どもたちは幼すぎた。
とくに、フィリアが目を離そうとしないエルトという前髪の長い少女は、年齢を偽っているとしか思えない。なにか別種族の血が混じっていて、幼いように見えるのかもしれないが、それにしても、冒険をさせるのには小柄すぎる。
リオーネとナニは完全にエルトを年下扱いしているし、エルトはリオーネとナニのことを「リオにぃ」「ナニねー」と呼んでいるではないか。
三人が同い年であるはずがない。
「フィリアが立会人になるにゃ?」
予想していなかった展開に狼狽して、うっかり猫語になってしまっていた。
よっほどびっくりしたのか、ペルナの猫耳がピンと立ち、毛が逆立っている。
「いや、ペルナ、ぼくじゃないよ。『赤い鳥』が立会人になる。なにか、不都合でもあるかい?」
一階にじわじわと拡がっている押し殺した雰囲気にびくともせず、フィリアは涼しい顔でたたずんでいる。
『赤い鳥』のパーティー名がでたとたん、酒場のざわめきがさらに大きくなったが、フィリアは平然としたままだ。
「にゃ! 『赤い鳥』が立会人になるのかにゃ? そ、そういうの、メンドクサイから嫌って言ってたにゃのにぃ?」
フィリアは低ランク冒険者にアドバイスはしても、冒険者同士のいざこざに介在することは決してなかった。
そのあたりの線引は、冷酷なほどはっきりとしている。
彼に言わせれば、その程度のトラブルも自力解決できないようでは、冒険者を続ける資格なし……だそうだ。
なので、冒険者たちが喧嘩してようが、いじめられていようが、フィリアは手も口もださなかった。
他人にたいしてはそうだが……自身と自身の率いるパーティーに売られた喧嘩や、降り落ちる火の粉を払うのには、全く躊躇なく、容赦もなかった。
その苛烈さは「死んだ方がマシだった」と相手に言わせ、「ルースギルド長の現場版」と恐れられていた。
その『彼』が宣言したのである。
このちびっ子たちがなにかしら被害にあえば、フィリアに喧嘩を売ったと同じことになり、死よりも恐ろしい鉄槌がくだされる……ことが宣言されたと同じことであった。
「確かに、立会人って、面倒だよ。でもね……この子たちは面白いよ。うちの重戦士に、不意の一撃を与えるのに成功したんだ。それに対する『ご褒美』があってもいいと、ぼくは思うんだよね?」
「ゴホウビ……? たしかにそうだにゃ。『赤い鳥』が立会人にみゃってくれると、ギルドもあたしも安心にゃ」
力強くペルナが頷く。
帝都で有名な『赤い鳥』が立会人になってくれれば、初心者冒険者や年少の冒険者に嫌がらせをする奴ら――弱い者いじめをする奴ら――に対して、強力な抑止力になるだろう。もう、大船に乗ったも同然だ。
この子たちを襲おうとする、不埒で邪なな輩も減るにちがいない。例えばあいつとか、あいつとか、あいつとか…………。
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