3-14.嘘はついていないよね?

(だめにゃ。もう、こうにゃったら、いっそのこと、三人まとめて冒険者登録するしかにゃいにゃん……)


 ペルナは覚悟を決める。


 それに、冒険者登録をしたからといって、いきなり魔物討伐に行くわけではない。

 冒険者の能力、適正を見極め、ランクに見合った依頼をわりふっていくのも、冒険者ギルドの受付嬢たちの仕事だ。


 依頼の達成率とともに、冒険者の生還率も上げていくのが、ギルド職員の役目なのだ。


 子どもたちには、薬草摘みとか、見習い用の安全なクエスト――別名、雑用――を斡旋したら危険度もぐぐっと下がるだろう。


 冒険者の仕事は、なにも魔物を退治するだけではないのだ。


 さらに……今日は(幸いにも)受付窓口には自分ひとりしかいない。

 今、冒険者登録を受け付けるというのなら、三人とも自分が担当することになる。


 登録を担当すれば、今後のアプローチも仲間たちに先んじることができるだろう。


 リードだ。リード。

 先制攻撃成功だ。


 なんという幸運!

 またとない僥倖!

 今日ならば、じっくりたっぷり『極上の癒やし』をペルナひとりが堪能できる!


 そう、やるなら今日しかない!


 ……と、微妙に歪んた形で、ペルナのやる気モードが変な方向に加速する。


 ギルド窓口で耳をパタパタさせて、くねくねと体を動かしているペルナになにかを感じたのか、フィリアが子どもたちの目線にあわせたまま、話をつづけた。


「なるほど……。ところで、自己紹介がまだだったね。ぼくはフィリア。魔法剣士で冒険者ランクは超級。『赤い鳥』という、上級パーティーのリーダーをしている。こっちの彼は、メンバーの重戦士ギルで、盾役。冒険者ランクは上級。……そして、ロリコンではないからね」


 よろしく、とフィリアはにっこり笑う。


 ギルはなにか言いたそうな視線をフィリアに注いだが、自ら傷口を広げるような言動は避けたいようで、「よろしく」とだけ静かに呟く。


「ぼくは、リオーネ。剣士をやるんだ!」


 リオーネはキラキラした目をフィリアとギルに向ける。剣士を志望するなら、魔法剣士、しかも超級冒険者なら、あこがれの存在、成功者といってもいい。


「…………ナニ」

「…………エルト」


 少女たちは警戒しているのか、言葉が少なくて硬かった。それにひるむことなく、フィリアは子どもたちに語りかける。


「リオーネとナニとエルトだね。ぼくも同じことを質問するけど、みんなは、ホントウに十歳なんだね?」


 ホントウにという部分を強く、はっきり、ゆっくりと言う。

 フィリアからの年齢確認にも、子どもたちは「そうだ」と大きくうなずいていた。


「嘘はついていないよね?」


 黒髪の少女エルトにぴたりと視線を止めたまま、フィリアは再度、確認する。

 子どもたちの答えはかわらなかった。


「……そっか」


 フィリアはまだなにか言いたそうだったが、あきらめたかのように軽く首を振る。


「ぼくとギルはね、帝都のギルドで七年前……十二歳のときに、冒険者登録をしたんだよ。キミたちは、ぼくの後輩になるね」

「おおおっ」


 リオーネ少年のキラキラ度がさらに高くなる。あとひと押しがあれば『センパイ』とか『アニキ』とか言い出しそうだった。


 ペルナはその絵面をちょっと期待したが、真面目なフィリアにそういう企みはない。

 フィリアは先輩風を吹かせたりとか、自分が超級冒険者だからといって、ランク下の冒険者たちを蔑んだり、偉ぶったりは決してしない。


「先輩としてなんだけど……。もし、キミたちが邪魔でなければ、キミたちの冒険者登録に立ち会わせてもらえないかな?」


(にゃんですとおっ!)


 大声で会話していたわけではなかったのだが、世話好きな魔法剣士の言葉に、ギルド内が一瞬ざわついた。


 どうやら、このやりとり、酒場で時間をもてあましていた冒険者たちの注目をあびていたようである。



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