第21話 救うために……
希望が見えたのは一瞬だった。
なぜなら俺は思った。
飛ぶのは明日だぞって。どう考えても間に合わないぞって。
でもお兄さんは笑った。あの爽やかな、胡散臭いやつで。
「志依、話がある。部屋入るぞ?」
「幽霊さん……?」
ドアをすり抜けて志依の部屋へ入ると、天を仰ぐかのようにキャリーバッグが開かれた状態で置かれていた。
はぁ。ここ数日はこのいじけた格好を見なくなったというのに……。
俺とお兄さんは、荷造りもままならずベッドの上で膝を抱える志依を挟み腰掛けた。
そして俺はお兄さんの視線に促され、早速話を切り出す。
「なぁ志依。今回の海外勤務の件だけど、俺に任せてくれ——痛っ。……俺とお兄さんに任せてくれないか?」
「え……?」
「総体に出たいだろ? 転校も嫌だろ? 友達とも別れたくないだろ?」
「……もしかして、幽霊さんが助けてくれるの……?」
「そうだ! えっとだからさ、ちょっと志依にも協力して欲しいことがあるんだよ。いいか?」
「……うんっ。もちろんだよぉ。幽霊さんありがとう……」
「ああ! でさ……」
お兄さん曰く、俺たちにだけに出来る“秘儀”があるらしい。
ただその秘儀を使うためには、足りないものがあって。
「一度この部屋を俺たちだけに貸してくれ時間はお前が風呂に入っている間だけでいいからっ」
「え?」
しまった。後ろめたさからか、早口になってしまった。
「お、お風呂……? 一階で待ってるんじゃ駄目なの……?」
でも志依は聞き取れたみたいだな。何でそんなことしなきゃなんねーかは、全然わからないだろうけど。
「あぁそれが駄目なんだよ……あ。もちろんいつも俺たちが頼まれているように、
それを言うなら風呂に入る気分でもねーだろ。とゲーム機に目をやりながら、内心俺はツッコミを入れる。
けど風呂を覗かれては困るからと、
「私が上がるまでに、リンゴツミツミで3000点に達していることが証拠だよ……?」
そう俺たちが志依にさせられているように、ゲームなんかして待たれたりでもしたら足りないものは補えない。
だから入浴を勧めることは、やむを得ないんだ……。
「じゃあ俺たちは、お前の父さんを日本に残らせるためにここで魔法を使うから、お前は必ず風呂に入ってから戻って来るんだ。身体を隅々まで洗って、筋肉もよくほぐしてやれよ? そうして綺麗になった状態でないとミッションは失敗する。絶対に覗いちゃ駄目だぜ?」
「うん、わかった……やってみる。なんだかこれ、昔話の鶴の恩返しみたいでドキドキするね……? なんて……私は何も出来てないけど……。それじゃあお風呂に入ってきます。幽霊さんとお兄さん、どうぞよろしくお願いします……」
俺たちはさっきまで隠れていた胸の谷間を見て、スカートが翻った時に見えたぱんつを見て、志依と別れた。
「よし、行ったね志依ちゃん」
「はい。行きましたね……」
「「~~っっ!!」」
俺たちは閉まったばかりのドアを貫通して、我先へと階段を駆け下り、浴室へと向かった志依を追う。
え? 魔法は、ミッションはって? そもそも秘儀はって?
そのための準備なんだよ、これが。
さぁぁぁあ! 覗くぞぉぉぉお!
死人の俺が青春してるなんて誰も思わない りほこ @himukai
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