経過報告/2
村のみんなに打ち明けた。全部。
『蜘蛛』を倒して、その後釜に据わったこと。
ボクと私のこと。
ボクが私と混ざったこと。
ボクの正体……前世のこと。
それらは全て大宴会の肴になって、飲み下されてしまった。
「えぇ……」
大盛り上がりだった。
響き渡る魔王コール。大篝火を囲い、歌って踊って呑んで食べる人々。それでいいのか騎士団の平民さんチーム。
「エヘヘ」
しれっと混ざりほろ酔い状態のリンゴちゃん。捕虜として話すついでに食事でも、ということだったが、聴取は後日になりそうだ。……というか、権能と一緒に魔王の役割の情報も頭に叩き込まれたから、あんまり聞くことないんだけど。服見せてもらうくらいか。
「魔王だからってビビってたけど、他のもいいヤツなのかねぇ」
「だといいよなぁ」
そんな声が漏れ聞こえた。リンゴちゃんも今こそ友好的だけど、初手ハメ技で詰ませに来てたからね。
「はぁ。心配して損した……」
正直、もっと距離を置かれてしまうかと思ってた。
◆◆◆
イリスお兄さまと団長さんに報告しに行くと、絶句された。
「……そんなわけで、村には産業を興す能力があります。自衛能力ももちろん、王都の騎士団に引けをとりません」
「アイリが王都に叛逆などしないよう、駐屯している我々が目を光らせます」
「何かあれば、私が『転移』で報告に上がります」
「…………ハァ……」
騎士団長は額に青筋を浮かべている。ボクたちは正論を並べているようで、その実騎士団の戦力を一部接収する形で独立宣言をしたのだ。叛逆の抑止とアッシュは言ったが、それを言うなら正にいまコレこそがそうだろう。
「条件が二つある」
と、イリスお兄さま。
「マフラー、暑くないんですか?」
さすがにもう春だ。さぞ苦しかろう。
「口元を隠すのは軍師の作法だ。知らなかったのか?」
「いひひ。なにぶん、世間知らずの妹なもんで……」
「その世間知らずが、騎士団とはいえ平民上がりの連中と、村長以外子供しか残っていない村人とで村を運営するのは難しいだろう。こちらから数名、政策の顧問を派遣したい」
痛いとこ突くな……このマフラーお兄さま。こっちがチンピラのわがままみたいな主張をしていると察するや、それを補強する形の要求を通しにきた。これは断れないだろう。
「承知しました。えっと、ボクの側近? ってことなら、できれば女性の方が助かるんですが……」
「当たり前だ。アッシュが懐刀というのも腹に据えかねているところだからな」
「では、そのように」
「次に。オルテの報告の折にはアイリ、お前も来るように」
「……? はい、承知しました。……?」
よくわからない条件だった。
村の代表が騎士団に義理を通す、という形式だろうか。しかし、それなら『転移』を使わせなかったりとか、もう少しマウントを取ったり、手土産にあれこれ指定したりもするだろう。いや、手土産くらいは言われないでも持って行くけどさ。年貢みたいなの寄越せ、とかじゃないのか。
それ以外だと、ボクがここに来るのはデメリットだらけなはずだ。毒と糸の制圧力は、もちろんやるつもりこそないけれど、ボク一人で王都の騎士団に喧嘩を吹っ掛けられるくらいだ。それが騎士団長と大軍師どのの前に定期的に現れるというのは、気が気ではないはずだ。やはり示威か?
……イリスお兄さまはマフラーで鼻先までを覆い隠し、その表情を悟らせまいとしている。なるほど、軍師向きなわけだ。アッシュとオルテちゃんはなんか微笑んでいる。なに? 和むとこなの、これ。
お兄さまの目配せに、騎士団長は無言で頷く。騎士団としても妥当な折り合いどころだったらしい。
「こちらからの人員は、次回の報告の際用意する。下がってよい」
「失礼します!」
「失礼します」
「失礼しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます