毒と薬/2
またまたやらせていただきました。
「く、カ……はッ ……」
力なく首を垂れ、濁りつつある瞳でボクを見上げる『蜘蛛』。
糸の席……"苦悶の意図"が解けていく。
「降参しろ、『蜘蛛』」
今回ボクが採用したのは一酸化炭素。血が赤い……ヘモグロビンを採用している……生物にとって最悪と言ってもいい毒だ。
とりあえず彼女の血液が赤いのはりんごほっぺからも確認済み。
ボクより背が高いので、空気より重い硫化水素ではボクが先に死んでしまう。しかし一酸化炭素は空気とほぼ同じ、ほぼ制御不能な性質をしている。対策としては
発生源はボクなので、上にいるみんなには届くのが遅い。
あとは、ボクが相手より大人しくしていれば勝てるって寸法だ。
解かれた糸を使って、簡易マスクを織る。イベント会場までは身バレ防止のため付けていた相棒だが、久しぶりだな。うん、フィット感フィット感。
「これで交渉のテーブルに着いたね、『蜘蛛』。お話したいなぁ!」
「降参する」
あれ。
勝っちゃった。
◆◆◆
野営。
決着後、オルテちゃんの『転移』で城の外へ脱出。
いい感じのところまで新鮮な空気を味わいながら……リンゴちゃんはディードスさんが背負ってくれた。貴族に嫁いだ娘さんと同い年くらいだと、妙に感動していた……いい感じのところに落ち着いた。
ぐったりしているリンゴちゃんの口元に手を翳して、気をつけながら酸素を吸わせる。一酸化炭素は比較的復帰が楽なのが助かる。
「えー、捕虜です」
「…………」
ムスッとするリンゴちゃん。
難しい顔をしているのはシーザーさんやエフェールさんも一緒で、アッシュはボクに任せてくれてるしオルテちゃんはポヤポヤしている。ディードスさんはずっとパパの顔をしていて、ボクも嬉しくなっちゃった。
「どうするつもりです、アイリ」
ニコニコしていると、シーザーさんが切り出しながらスープを手渡してくれた。美味しいんだよなぁ。なんの肉使ってるか聞かないのが味わうコツである。
「それを今から話すんだろう。焦りすぎだ、シーザー」
「焦るだろう。相手は魔王だぞ」
「リンゴちゃん、口に合うといいんだが……」
「ディードスもだ。なにあーんしてるんだよ。いくら娘さんと同じくらいったって、その年頃の娘にあーんはないだろ」
「あら。とても美味しいのね」
「『蜘蛛』、あんたもだよ。なにやってんだよ」
「……はて?」
きょろきょろするリンゴちゃん。
「いや、あんただよ」
「まぁまぁエフェール、せっかくの食事の席だ」
「私? 私はリンゴちゃんですわよ」
「オルテちゃんです」
「なになに? アイリちゃんでーす」
女子三人、いぇーいとハイタッチ。
「……リンゴちゃん。どういうことなんだ」
「どうもこうもエフェールくん、私は死にたくないから降参したんだよ」
「…………」
「すると、どうなると思う?」
「何が言いたい、『蜘蛛』」
「あ、ボクだね、『蜘蛛』」
「うむうむ」
ディードスさんに食べさせてもらいながら、リンゴちゃんが頷く。
アッシュが舌を火傷したらしく、生み出したスモモをしゃぶらせておくことにした。最近裾を引っ張ってねだってくるからな、この萌え分隊長。
「魔王というのはだな、交代制なのだ」
リンゴちゃんは語り始めた。
「つい百年ほど前までは、頻繁に入れ替わっていたのだがな。最近の人間は挑戦を忘れたのか? ともかく、魔王は必ず七人。敗者は勝者に権能を譲渡し、より強い魔王を生み出すのだ」
「……なるほど」
術式の積み重ね。ミイラ取りがミイラに。
念じてみると、中空に糸が伸びた。
「『蜘蛛』として蓄積された術式は、糸の創生と眷属の生産・使役が主だ」
「糸の編み上げは?」
「作りたい形に合わせて糸を出していただけだ。そうそう、アイリ、君の早縫いには感動したぞ。あれは技術なのだろう?」
「マスクのやつはそうだね。こう、こう!」
ほぼ無限に糸が出せるようになったので、ちゃちゃっと作ってみせる。
「……?」
「どうかしましたか、アイリさん?」
「……いや、別に…………こんな便利な力もらっちゃっていいの?」
「よいよい。他には? 私はイタイケな捕虜だからな、なんでも話してしまうぞ?」
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