『蜘蛛』までの道中

 盛大に(とはいっても、村の規模が規模だから、それなりではある)見送られたボクたち六人は、丘を下り森を進み、シーザーの『観測』とボクの太陽を使った方角確認で『蜘蛛』の城へ向かう。


 道中、小動物系の魔物と遭遇した。三匹ほどで群れて、撹乱しつつダメージを与えてくるようなヤツらだったが、速さと手数でエフェールさんに敵うものはいなかった。

「エフェールさん一人で『蜘蛛』に勝てるんじゃないですか?」

「そうですかね? やっちゃおっかなぁ!」

「やめとけエフェール。アイリも、部下をおだてないでくれ」

 アッシュに叱られた。


 今度は熊のような筋骨隆々の魔物。ディードスさんが相撲でいう上手投げで勝利……熊さんもなんかノリ気じゃなかった? そして爆発四散。なんで?

「ディードスさん一人で」

「イケるかもなぁ!」

「やめとけディードス。ていうかいまの爆発なんだよ」

 いまの爆発っていうか、熊型の魔物との戦闘全部おかしかったよ。っていうと、実はボクが知らないだけで色々あるのかもしれないから黙っておいた。白昼夢ってことにしておこう。


 野営。

 道中倒した魔物は、血抜きなどの処理をして魔術スクロール"保管庫"に収納。言うには、国宝ではないがそれに近いものらしい。騎士団の分隊長以上が一本だけ持たせてもらえるらしく、値段は付けられないとのこと。嵩張らないし重さもどっかに行くので便利だが、入れたものの取り出しにはセンスがいるらしく、素人では目当てのものを出すために一旦ひっくり返す必要がある。みんなごめんね。オルテちゃんは空間に対する魔術を扱う分こうのにも長けていて、おっかなびっくり異空間に手を突っ込んでくれた。


「これって誰かが作ってるんだよね? たくさん作ったりできないの?」

 みんなで焚き火を囲いながら、アッシュに尋ねる。

「技師の先生が偏屈な人らしくてな。質の良いものを、となると、あの人がノってるときに頼まないとならない」

「なるほど」

 よくあることだ。ボクもコスプレの衣装でここぞ! というパーツはゾーンに入ったときに作るようにしているから、そのこだわりはわかるつもりである。


「今度会うことってできる?」

「魔王を一体倒したとなれば、向こうから飛んでくるんじゃないかな」

「どうも、ご歓談中。索敵終わりました」

 シーザーさんの報告。彼が長く目を閉じているときは、大体遠くを視ているときだ。半径数キロに渡り"眼"を飛ばす彼の魔術は、アッシュたち以外にはあまり評価されていないという。オルテちゃんも同様で、普段は歩く伝言板として働いていてイヤだったとか。魔術前提の軍っていうのがあんまりわかんないけど、二人の情報戦での価値は相当なものなはずだ。


 ……時折、脳裏をよぎるのだが。アッシュってば、もしかして王都に反乱するつもりじゃないよね? ボクが元現代人(なんか変な言葉だな)で、そういう例を学校とかで習ったりしてるから、そういう線が繋がりやすくなっているだけかもしれないけど。一応気に留めておこう。


 シーザーさんの報告を受けたボクたちは、生地に羊毛を挟み込んだ簡易寝袋に身を包み、各々寝息を立て始めた。シーザーさんが大丈夫と言ったら本当に大丈夫なのだ。ちなみにこの寝袋、ボクが作ったんだけど。ねぇ、ねぇ。

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