パラリラパラリラ会議

「『鉄』『姫』『蜘蛛』『獅子』『竜』『大角』『雨』、かぁ」


 魔王城カチコミまで一ヶ月を切った。

 こっちの冬は案外短いようで、結構は春先にすることに。イリスお兄さまとの約束は三ヶ月以降だったので、冬支度をしながら四ヶ月ということにしたのだ。


 七大魔王についてわかっているのは、その異名と居城の位置だ。

 ここから向かうには、いずれも十日前後かかるらしい。道中魔物に襲われればその分時間は食うけれど、食べ物や飲み物はボクがいればなんとかなる分、荷物はかなり削減できるという。


「このうち一つを落とすわけだが……」

 観測術師シーザーは、地図の上で指を踊らせながら言い淀んだ。

「一番近いのは『鉄』だが、『鉄』の魔王と言われてもなぁ」

「『雨』や『大角』もよくわからんけどな」

 大斧振るいのディードス、俊敏剣士エフェールが続いた。


「オルテちゃんの転移魔術ってどのくらい効くの?」

「はい。術式阻害がなければ、荷物を持った十名ほどなら『獅子』までカバーできます」

「オルテちゃんが一人で王都まで飛ぶとしたら?」

「アイリちゃん、そういうのはナシです」

「念のためね、念のため」

「……一人であれば、王都の場所がわかる限りどこでもいけます」

「頼りになるねぇ」

 オルテちゃんとの付き合いも三ヶ月。まぁ、順当に仲良くなった。


「村のことは任せておいてくれよ、アイリ姉ちゃん!」

「うん。よろしくね、作物大臣」

 立ち直りつつある少年団のリーダー、メイちゃんのお兄さんのキューズくんだ。かなり高度な温度を操る魔術を扱えるらしく、一部の野菜の温室化や鶏小屋の温度管理を受け持ってくれている。今度王都に行くときには魔術の認定を取る予定だ。


 子供たちといえば、大怪我をしていたメイちゃんは治癒魔術に目覚めたようだ。初めて見るけど、体の成長を促すように傷が治っていくのは治療促進薬と同じだった。しかしスピードは段違いで、治癒術師が増えればあの薬も用無しになるだろう。


「アイリ、君はどう考える?」

「そうだな……」

 アッシュに話を振られたボクは、一つの城を指差す。

「『蜘蛛』でいこうと思う」

 我ながら即決だった。


「最悪、今度の衝突で七大魔王全部が臨戦体制に入るかもしれない。その場合、七つのうち真ん中らへんの『蜘蛛』か『獅子』を落としておけば、先にボクたちのところに着くのは『鉄』か『姫』ってことになる」

「本当に最悪の想定だな……」

「『蜘蛛』と『獅子』なら、なんか『蜘蛛』の方が弱そうだし、近い分オルテちゃんの転移にも余裕がある。だから『蜘蛛』がいい」

 というのが、ボクの考えだ。王都がしっかり防備を固めている前提で、一斉攻撃より波状攻撃の方がまだマシと判断したわけだ。


「魔王連中が手を組むってのはねェのかな」

「バカだなディードス。そんなことがあったら、とっくにオレたちゃ滅んでるよ」

「過去に魔王同士で友好的な交流があったデータもない。度外視していいだろう」

「シーザーが言うなら……そうだな」

「……シーザーさん、魔王さんたちって、仲悪いの?」

「らしい。等間隔に城が並んでいるだろう? 互いに不可侵を貫いていると考えてよさそうだ」

「なるほど」


 ん? 待てよ?


「じゃあさ、もし魔王のうち一人とでも同盟を結べば、ボクたちが一番強い勢力ってことになる? よね?」

「アイリちゃん、それは……その……」

「ははっ。いいな、それ! それでいこう、アイリ!」

「ちょっと分隊長、いくらなんでも思い切りすぎでは……」


「姉ちゃん、話し合いなら『姫』ってヤツのとこじゃダメなのか?」

「『姫』を名乗るヤツにロクなのいないからね」

「そ……そっか……」

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