活動報告/1
村に帰ってきた。
「新しい村人のオルテさんだよ。拍手」
「新しい村人のオルテです。えっ?」
オルテさんの復唱に勝利したボクは、まばらな拍手を浴びる。
「オルテさんはボクと一緒に暮らすことになります。監視にもうってつけだよね?」
「えぇ、まぁ、はい。はい」
では、また翌朝。
◆◆◆
朝というか、未明。
「アイリさん、なにを?」
「日課の畑いじり」
ぽてぽて着いてくるオルテさん。昨晩無言の女子会を開いてわかったのだが、かなり小動物ちゃんである。栗髪目隠れパッツン高身長シスターでありながら、である。属性多いな。
「次は何を……わぁ、ぁー……」
「家畜の世話……めっちゃ懐かれてんじゃん。いいなぁ」
少し目を離したスキに、膝の上を鶏数十羽に占拠されていた。ボクは割と避けられるので羨ましい限りである。
「……ずいぶん、大喰らいなんですね」
「違う違う。村の子供たちと、駐在してる騎士団のみんなの分」
大鍋をかき混ぜているボクがヒィヒィ言い出したので、オルテさんが代わってくれた。身長があるとはいえ細身なのに、とても力強い杓捌きである。
「……立派ですね、アイリさんは」
「別に。こうしておいた方が、あとで楽だから」
「……?」
小首をかしげる小動物。色合いもあって、めちゃくちゃデカいリスみたいだ。
「ボクは本質的に余所者だからね。おまけに毒とか出すし。一人で生きるのも難しいから、こうしてみんなの役に立つフリをしている。ホントは楽してぼんやり過ごしたいのに、勢い余って魔王? とかってやつの約束もしちゃったし」
アレなぁ。なかったことにならないかなぁ。いや、どうせボクは同じく流されて、やることになるんだろう。早いか遅いかの違いだ。
「……やっぱり、立派ですよ、アイリさんは」
「……ハイ、味見お願い」
「失礼して」
なんの躊躇もなく小皿に口をつけるオルテさん。
「怖くなかった?」
「はい。アイリさんは、立派な人ですから。とても美味しいですよ」
「……調子狂うなぁ」
具材にスープが染み込むのを待つ傍ら、パン……というか、小麦粉を捏ねた何かを天然のオーブンへ放り込む。こっちの世界で一番美味しいんだけど、何がいいかはわからない。
「オルテちゃんはさ」
「はい、オルテちゃんです」
ついちゃん付けしちゃった。
「ヤじゃない? こんなところで三ヶ月以上だよ?」
お目付け役、である。
ボクが逃げないように、王都に反旗を翻さないように、何より予定より早く魔王の城に乗り込まないための。
そのために、朝昼晩と王都の自宅? 自室? に転移魔術で帰ることなく、ボクのそばにいなければならない。難儀な役割だろう。
「嫌でしたけど……土を触ったり、動物と遊んだり、味見をしたり……結構、役得も多そうです。この任を受けて良かったと思っています」
「めっちゃいい子じゃん」
「めっちゃいい子、です」
「…………」
「てへ」
おもしれー女……。
コケコッコ、と相次ぐ鳴き声。朝が来た。
「みんな起きてくるから、一緒にご飯食べよ、オルテちゃん」
このあとわかったことだが、オルテちゃんは子供が苦手だったらしい。たくさん話しかけられて、ひたすらオウム返しをするばかりになってしまった。
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