第4話 二日目① ~罪と罰~
朝目覚めると、昨日の苦しみの大半は既に去って、偏頭痛だけが残っていた。
シャワーを浴び、朝食をとりに食堂へ。
街で食べ歩きする腹を残すため、朝食は軽めと心掛ける。だが、蜂蜜が巣ごと木枠に架かっているのには誘惑された。黄金色の
黒海沿いの
今日は一日オフにしてもらった。アイテンさんとは夕食を御一緒に、とだけ約束している。
仕事の次の日は、体調のみならず心の調子も不安定になってしまうのだ。だがこれは、私がまだ
守秘義務があるので
毎回仕事を受けるに当たって私の出す条件は、私が納得できる依頼理由を訊かせてもらうこと。とは云え私が納得したところで人を殺める罪から遁れられる訳ではない。
私に人を裁く資格があるのか、と問われれば、答えは否だ。だが、どの道その問いは無意味だ。
嘗てある神が預言者を通じて
世界がそのようであったなら、
「神は死んだ」と誰かが
神殺しの罰でも当ったのか最期は狂い死んだ哲学者の喝破を待つ迄もなく、
――閑話休題。
私は今、自ら罰するかのように、トルコ最恐のスイーツに対峙している。
薄いパイ生地の間にクルミやピスタチオを挟んで幾層にも重ね焼いたお菓子、その名をバクラヴァ。これだけ聞けば普通に美味しそうなものだが、バクラヴァをバクラヴァ
シロップの海に漬かったバクラヴァを持ち上げると、その身からシロップが滴り落ちる。
神に罪を懺悔して口に抛り込んだ。
口中に広がる、味覚を麻痺させるほどの甘さ。噛む度にシロップが滲み出て、甘さの途切れることがない。それでも、稀にナッツとパイが極く控えめに味を主張するのを頼りに噛み締めつづける。
あとは砂糖なしのチャイ二杯で喉の奥へと流し込んだ。
バクラヴァで〆た朝食を
大通りを歩いていると、後ろからやたらクラクションを鳴らして、小型バスが抜き去って行く。トルコで庶民の足として親しまれる、ドルムシュだ。ルート沿いならば何処でも乗り込み、降りられる。クラクションは、乗らないか、と云う合図。
三台目のドルムシュが来たのを、手を挙げて止めた。
乗り込んでみると、中には乗客が二十五人ばかり。
場を占められそうな隙間を見つけて移動する間に、もうドルムシュは動き出している。慌てて手摺を掴んだ。急発進、急ブレーキ、予告なき車線変更。荒い運転だ。
乗車賃は前払いになっている。
財布から10
ドライバーは相変わらず手荒なハンドル捌きで合間に釣り銭を取り上げると、すぐ
繰り返しになるが、トルコ人は実に親切だ。そして正直な時は、底抜けに正直だ。
だが一方で、損得勘定には
分からないからこそ、より知りたいと思う。探求して新たな発見があれば嬉しい。そして、
また急ブレーキ。車が止まり切らない内に扉が開いて、子連れのご婦人が乗り込んで来た。すると若い男が
車窓から騎乗の銅像が見える。此処からでは貌の
共和国議会から贈られた名、
共和国建国から一世紀近くを経て、彼を信奉するトルコ人は
ドルムシュは乱暴な運転のまま街の中心部へと向かって、道は
坂道を登っていくと、往来の真ん
押し負けて、結局二個買う羽目に。受け取ったシミットは、
これは親仁が正しかったか。あっさり二個いけそうだ。
シミット片手に歩き出す。焦げた胡麻の香りが香ばしい。
左右に並ぶ商店は、何処も似た商品を扱っている。
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