第2話 SF世界は、いろいろあって良い。「あいつとは、ちょっとした賭けをしているんだ」って、言うけれどさ。それって、どういう意味だったんだ?

 おかしいなあ?

 これって、何?

 ファンタジーで見るような、特別な鍵ではないだろう。

 いたってフツーの、鍵だ。

 つか、このおじさんは何者?

 「さあ、ツバサ君!約束は守ったぞ!」

 「…はい?」

 「鍵だ!」

 「ええ、まあ、そのようですね…」

 はて?

 「この鍵の力を甘く見ては、ならん」

 悩めることを、言ってくる。

 「あのう」

 「何かね、ツバサ君?」

 「これって、どんな力をもつ鍵、なんですか?」

 「なあに…。扉を開けて走り出すための、やる気スイッチのSF的魔法装置だと、思ってくれれば良い」

 「?」

 「必ず、勝ってくれよな?あいつと、ちょっとした賭けをしているんだから」

 「?」

謎のおじさんに「SFの鍵」なる物を手渡され、彼は、うんざり。

 「それでは」

 バタン…。

 玄関が、閉められた。

 おじさんは、どこかに去っていくのみ。

「変な客、だったな」

 家の玄関で、もらった鍵を、ぼんやりとながめていた。

 まさに、そのときだ!

 バタン!

 先ほどとは急に変わり、勢い良すぎるくらいに暴力的な音。家の外に向けて、玄関が開かれた。

 「さあ、スタートです!」

 …え?

 目の前には、草原が広がっていた。

 「うわ!まさに、SF的世界!」

 気付けば、彼の姿も変化していた。

 「え?俺の姿が、ウマになっているぞ?」

 きっと、こう言われそうな展開だろう。

 「ふん。どうせ、フツーの競馬がはじまるっていうんだろう?」

 ああ、言われそう。

 が…、ちがう。

 妙だ。

 フツーの競馬なんかじゃ、ないぞ。

 そもそもが、ウマの姿となっていた彼の背中には、だれも乗っていなかったのだから。

 「ウマ自身が走るレースが、はじまる!つまりは、そういうことなのか?」

 これじゃあ、ウマ娘的なレース展開じゃないか。

 妙なのは、もう一点。

 謎のおじさんから受け取った鍵の姿が、ぐにゃりと、変化していたことだ。

 鍵は、秒で、野菜の「ニンジン」に変わっていた。

 「うおー!」

 その鍵を一目見るなり、彼の鼻息が、荒くなる。

 彼はもう、走るしかなかった。

 ニンジンに、心を奪われてしまったのか?

 さっぱり、わからない。

 わかったのは、SF的草原のゴール地点で、謎の鍵をくれたおじさんが、叫んでいたことだ。

 「いけ!勝つんだ、俺!走れ、走れ!若かりしころの、俺!走って、やり直してやるんだ!」

 …え、え?

 「時空を超える空間の力」は、恐ろしい。

 あのおじさんは、50年近くたった未来の彼だったんじゃないか?

 「あいつと、ちょっとした賭けをしているんだ」

 おじさんは、言っていたはずだ。

 それって、こんな意味の言葉だったんじゃないか?

 「あいつとは、過去の自分自身。走り直す賭けを、したんだよ!もちろん、どちらの俺も勝つためにな!さあ、走れ!将来に絶望した若い世代を、よみがえらせるんだ!勝ってくれよな、俺?」

 そんな意味だったとしたら、考えさせられる話じゃないのかな?

 あなたは、どうですか?

 この競争に、勝てそうですか?






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寒くなってきたが、走れ!謎の男が、俺の勝利にかけているらしいぞ。あんた、だれ? 冒険者たちのぽかぽか酒場 @6935

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