第8話

《目が覚める。まだ辺りは薄暗い。薪を集めて火をつける。パチパチ音がする火を見つめながらこれからのことを考えた。旅に出るとはいえ行きたいところやアテがあるわけではない。どうしようか。まあ、焦る必要はないか。気が向くまま進もう。朝日が登る頃、歩みを進めた。山を降り街へ向かう。とりあえずギルドに向かおう。資金を集めてもっと遠くに行くのもいいな。行ったこともない街へ行こう。まだ自分の本当にやりたいことはよくわからないけど、新しいものに触れれば何かわかるかもしれない。一年間、いろんな場所を旅しよう。

ギルドに依頼を受けに行く。今まではあまり時間がかからず、近場で一人で受けることが可能な依頼ばかりを受けていたが今度はここから離れたところの依頼を探す。別の街の依頼はグループで受けるものがほとんどで単独で受けられるものはなかった。どうしものか。近場で受けることもできるがそれじゃあ今までと変わらない。「うーん」と唸り声を上げていると受付の女の人が声をかけてきた。

「何かお困りですか」

「一人で受けられるものを探していて」

「ソロの依頼でしたらこちらに」

そう言って近辺の依頼を紹介してくれた

「少し遠くでソロで依頼しているものはありますか?」

「ここ近辺ではないとなると難しいですね。遠くからの依頼は大人数のものがほとんどでして。ソロ依頼はその付近のギルドに依頼されるので」

申し訳なさそうに彼女は言った。

「そうですよね、ありがとうございます。他の場所を探してみます」

そう言ってギルドを後にする。今すぐにパーティーを組むことはできないだろうし別のギルドを探すか。どのみちここを離れる予定だったんだしちょうどいい。

街を離れる準備をしていると「すみませーん!」と後ろから大きな声がした。なんだなんだ。驚いて後ろを振り返るとさっきの受付の人がこちらに向かって走っていた。先ほどのおっとりした受付嬢という雰囲気を覆すほどの迫力に周りにいた人もチラチラこっちを見てくる。

「ど、どうしました?」

彼女はまだ息を切らしている。周りの視線が痛い。少し時間を置いてようやく呼吸を落ち着けた彼女が口を開いた。

「すみません、急に。」

「いえ、急いでないので大丈夫ですよ。何かありましたか?」

「先ほどおっしゃっていたソロの依頼に関してお伝えしたいことがございまして。少し特殊なケースなのですが、ここから南に大分行ったところのある貴族の護衛をお願いしたいのです」

南か。どんなところか少し興味があるし断る理由はないだろう。ただ.....。個人での貴族の護衛か。少し面倒なことでもあるな。悩む俺を見て彼女は心配そうに続ける。

「貴族の護衛なのでみなさん敬遠するんですよね。誰も依頼を受けないので遠くのギルドまで依頼が来たんですよ」

なるほど。わざわざ受ける必要もないが、せっかくここまで追いかけて来てくれたんだし行ってみよう。無理そうならその時考えればいい。

「わかりました。受けてみます」

すると彼女顔を上げて目を輝かせた。

「本当ですか!ありがとうございます!それでは手続きがあるのであるので再度ギルドに戻ることになるのですが大丈夫でしょうか?」

承諾すると彼女はルンルンで歩き出した。ギルドに戻り手続きを済ませる。

「ではこれにて手続きは完了です。依頼主の方には連絡をしておきますのでここから南に向かったところにある『アンラ』という街のヴォルランテ伯爵の屋敷を訪れてください」

彼女は終始笑顔で嬉しさを隠しきれていない様子だ。依頼を引き受けてもらえたことがそんなに嬉しいことなのだろうか。

「ヴィナ、仕事に私情を挟んではいけませんよ」

そう言って彼女の上司らしき人が注意をした。

「すみません。初めて紹介した依頼を受けてもらえたので嬉しくって」

彼女は恥ずかしそうに俯いた。なるほど、それであんなに一生懸命だったのか。彼女の熱意に妙に納得した。

「でも、これからスマートでかっこいい受付嬢になるので!」

彼女は目を輝かせた。お礼を言いギルドを後にする。次彼女に会うのが楽しみだ、そんなことを考えながらアンラに向かった。》

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二つの世界 あおい @aoiyumeka

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