4 敵

「それではまず、昨日判明した敵の情報を、火野くんに共有します」

 格納庫に、沙恵さんの美声が響く。


 それにしても、なんで格納庫に直行したんだろう?


「博士、お願いします」

「うむ」


 そんな僕を置き去りにして、博士が説明を始めた。


「まずは……これを見たまえ」

 言いながら、1メートル四方ほどの黒い塊を指さす。

「……?」


 機械の様な感じだけど、これはなんだ?


「ワイバーンの頭部につけられていた、人工物です」

「あ!」

 沙恵さんの注釈に、合点がいった。

「これはのう……みさきと同類の……OSじゃ」

「ええっ!?」


 この箱みたいなのが……OS? いや、言われてみれば、確かに大きすぎるPCケースのようにも見えるような……。


「残念ながら奴を倒した時に、壊れてしまったようじゃが……」

「……ご、ごめんなさい」

「いや、みさきのせいではないわい」

「そうです。戦闘中の事で不可抗力です」


 二人にそう言われたが、みさきちゃんはすまなそうに俯いてしまった。


「「……」」


 ん? そして博士たちは何で僕を睨んでいるの?


「はああああぁっ……」


 え? え? またまた沙恵さんのクソデカため息が……?


「タケルくん……いや、タケルぅ!」


 は、博士? なんでいきなり呼び捨てに? そして、すすー、と近寄ってきた!?


(ここじゃろうが! この朴念仁が!)

(本当です、何がギャルゲーマスターですか?)


 いや、ギャルゲーマスターなんてそんな恥ずかしい事、言ってませんけど?


(今、しょんぼりしたみさきを慰めれば、好感度爆上がりじゃろうが!)

(ギャルゲー、いえ、これはリアルでもよく使われている手ですよ?)

(そうじゃぞ、タケル! わしも婆さんが弱ってい……って、何を言わすんじゃ!)


 いや、勝手に言い出したのは、博士じゃないですか!?


(じじいの戯言はそこら辺に置いておくとして、さあ、早く慰めて下さい)

(く、まあいいわい……ガイアキーパーゼロのためじゃ! さあ、早くせんか!)

(わ、わかりましたから、二人で圧をかけないで下さい!)


 特に博士は近づきすぎです! 沙恵さんは……どうしてそんなに離れていくの?


 と、とにかく、頑張ってみよう、僕!


「ああ、あの、みさきちゃん?」

「……はい」

「さっきはありがとう……僕の事、かばってくれて」

「い、いえ、本当のことを言っただけで……別に大したことじゃないです」

「それでもうれしかったよ。昨日も何にもできない僕の代わりに、ワイバーンをやっつけてくれたし……」


 かー、と赤らんだ頬を隠すように、彼女はさらに俯いた。


「でも……大切な機械を……壊してしまいました」

「それは……実戦だったわけだし……仕方ないよ」

「でも……」

「あのままじゃ、僕たちはやられていたよ……だから、誰が何と言おうと僕は本当に感謝しているんだ……みさきちゃん、ありがとう」

「!」

「あ! みさきちゃん!?」


 あれ? 走って逃げだしちゃったけど……。


「え?」


 どうして? と二人を見ると、にやけながら悶えている悪い大人たちが!


「いや~、若いっていいのう、沙恵くん」

「はい、そうですね……ちなみに私はまだ24歳ですが、そうですか、ばばあですか、私は……」

「い、いや、そういう意味では……」

「……」


 あ、氷の視線に屈した博士が、THE・土下座を披露した……。



「ぐすぐす……言葉のあやなのに……これが解析のために徹夜した老人にする仕打ちなのか……まあいいわい……ほれ見てみい、中に基盤やらがぎっしり詰まっておるじゃろう」


 立ち上った博士が半ベソで、パネルらしいものを開けた。


「うわ、こんなの初めて見ました」

「品質はこちら製の物には若干劣るが、よう出来ておる」


 その中から、黒い記録媒体HDDのような物を抜き出した。


「これの中身は無事じゃったわい」

 こんこん、と軽く叩く。

「でな、解析して見たら……わしのプログラムによう似たもんが入っておった……」

 遠い目をしてつぶやいた。

「博士……」

「大丈夫じゃ……タケルくんや、これを見てくれ」


 心配そうな沙恵さんを右手で制し、博士がHDDの表面を指さした。


「……え?」


 金属特有のツルツルとした表面にある文字を見て、驚いた。そこには、こう書かれていた。


【プロトタイプ・ツイン・ソウル・ドライバー】


「か、カタカナ……え? 日本語……?」


 無言でうなずいた博士が、さらに別の場所をさす。


「ガイア・T作……製作者、ですか?」

「じゃろうな」


 そう言って、博士が黙りこくった。


「さ、沙恵さん……?」

「……」

 だが沙恵さんは、首を横に振るだけだった。


「すまんの……覚悟はしていたつもりなんじゃが……」

 ようやく口を開いた博士だったが、さっきまでの振る舞いが嘘のように神妙だ。

「まだ確定ではないが……これを作ったのは、恐らくわしのせがれじゃ」

「え!?」

「田坂大地だいち……四十を過ぎているというのに、厨二病を患ったまま、行方不明になった馬鹿息子じゃ……」


 ツッコミどころ満載な告白に、僕は何も言えなかった。

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タンデムマシン ガイアキーパーゼロ 豆井悠 @mamei_you

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