第74話

「バカ野郎、俺のことより、……みんなプラズマ銃を用意しろ。あいつらは敵だ!」


 手錠を掛けられた二階堂は叫んだ。


 その時、メタルコマンダーはすでに地下駐車場に侵入していた。一列縦隊でやって来たのが、二階堂たちを包囲するように横に展開しはじめている。


「止れ」


 怪しんだ警官がプラズマ銃を向けると、1体のメタルコマンダーが跳躍してパトロールカーの上に着地する。天井がつぶれ、フロントガラスが割れた。


「まるでスパイダーマンか草薙素子だな」


 警官がメタルコマンダーに気をとられている隙に、二階堂はプラズマ銃を奪って、着地したばかりのメタルコマンダーを撃った。


 薄暗い地下駐車場が真昼のように明るくなる。腰の関節部が溶けたメタルコマンダーが床に落ち、大きな音を立てた。


 二階堂はすかさず二射、三射と撃つ。プラズマ銃は強力だが射程が短いうえにエネルギーは五射で尽きる。


「くそっ」


 手錠をはめられているために狙いが定めにくい。普段なら五体は倒せたはずだが、二発も外した。


 プラズマ銃を警戒した七体のメタルコマンダーが距離を取り、二階堂と警官を遠巻きに取り囲んだ。


「撃て!」


 二階堂が声をかけると、警官たちが息を吹き返したように拳銃やプラズマ銃を構えた。


 メタルコマンダーは素早い動きでプラズマ銃の射程外に後退した。拳銃の弾はメタルコマンダーを捉えたが、かすり傷しか与えられない。


「少しは時間が稼げそうだ。鍵をはずしてくれ」


「どういうことだ。説明してくれ」


 声を掛けた警官は手錠を外そうとしなかった。数日前、攻めて来たのが国軍でメタルコマンダーは味方だった。彼が二階堂を疑うのは当然だった。


「説明している間に、みんな殺されるぞ」


 二階堂の言葉と同時に、パトロールカーの砕ける音が地下駐車場に響き渡った。


 メタルコマンダーが車のタイヤをホイールごと引きちぎり、円盤投げの要領で投げつけてきたのだ。タイヤは警官が盾にしているパトロールカーを粉砕した。


 警官は車や柱の影に釘付けにされた。そうして初めて二階堂の手錠は外された。


「ありがとよ」


 二階堂は警官の肩をたたき、自分のワゴン車に駆け寄った。


 荷台のドアを開ける。そこには古いライフル銃や機関銃が並んでいた。ラーメン屋の主人のコレクションだ。それらではメタルコマンダーに致命傷を与えることはできない。


 ただ一つ役に立つ武器があった。発煙筒ほどの大きさのEMP手りゅう弾だ。しかし、その効果範囲は狭く、動きの速いメタルコマンダーは避けてしまう可能性が高い。倒すにはひと工夫必要だった。


 二階堂はEMP手りゅう弾の安全装置をはずし、三つを腰に差した。一つを手にして駐車場の左手に回り込む。駐車場の柱や車など身を隠す場所には事欠かないが、居場所はメタルコマンダーの人感レーダーによって知られているはずだった。


 一番近くのメタルコマンダーとの距離が20メートルほどになった時、一気に接近する。


 メタルコマンダーの判断も同じだった。三体が向かってくる。


 5、4、3……。頭の中で距離を測る。今だ! 直感が叫んだ時、手りゅう弾の起動ボタンを押して床を滑らせた。


 床を転がっているのがEMP手りゅう弾だと分析したメタルコマンダーが回避行動をとる。あるモノは床を蹴り、別のモノは柱を蹴って電磁パルスの影響範囲から離脱を試みる。


 二階堂はベルトから手りゅう弾を抜いて一体の着地方向めがけて投げた。更にもう一つを手にする。


 まるでカーボーイだ。……古い映画のワンシーンを思い出しながら、走る向きを変えてEMP手りゅう弾を投げた。


 三つのEMP手りゅう弾は一辺が30メートルほどの三角形のエリア内の電子部品を破壊した。その中に三体のメタルコマンダーが含まれていた。


 四つ目の手りゅう弾をベルトから抜こうとした時、真っ黒な物体が目の前に迫った。遠くから投げられたタイヤだった。それが左胸を直撃して二階堂は吹き飛ばされた。


 こいつら、進化している。……陸軍学校のテキストにはメタルコマンダーが連携するなどと書いてなかった。


 胸に激痛が走る。……肋骨が折れたかもしれない。痛みで動けなくなる前に弓田未悠を確保しておきたい。最悪の場合、彼女を殺せばネオ・ヤマト国を救うことができるだろう。……冷静に判断して後退した。


 しかし、混乱の中で警官の手元を離れた少女の姿を見つけることは出来なかった。


 逃げられたか?……彼女を連れて行った警官に対する怒りを抑えなければならなかった。彼は少女の重要性を知らないのだから。第一、他人を責めるぐらいなら、ここに来るまでに自分が殺すべきだったのだ。


 ここは鬼門かもしれないな。……F-City制圧のためにF-チャイルドセンターに降り立った時のことを思い出した。


 メタルコマンダーは俊敏に移動する。警官の攻撃は全く当たらなかった。一方、プラズマ銃を持たない警官は餌食になった。


「貸せ」


 二階堂は警官の手からプラズマ銃を奪い、柱の影を飛び出して走った。床の上を一回転して隣の柱の間に隠れる。その間に引き金を引き、メタルコマンダーの首を蒸発させた。


「残り三体」つぶやきながら、もう少し頑張れと自分を励ます。


 その時、目の前にメタルコマンダーが現れた。反射的に引き金を引いたがプラズマが出ない。


 エネルギー切れか。……すでに4回、警官が撃っていたのだ。それに気づかなかった自分が恨めしかった。


 メタルコマンダーが二階堂の頭を両手で挟む。


 首をへし折られる。……恐怖を覚えながら抵抗を試みる。腰に残っていたEMP手りゅう弾の起動ボタンを押した。


 頭が解放され、メタルコマンダーと共に床に崩れ落ちた。胸の痛みも床に落ちた衝撃も感じない。神経が麻痺しているのだ。


 残り二体。……数えたものの意識が遠のく。かすれる意識の中で、通路の向こうから駆けてくる数体のメタルコマンダーが見えた。


 新手が来たか。……二階堂の意識は絶望の闇に沈んだ。

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