第71話
ルカはテレサと共にF-チャイルドセンターの会議室に戻った。何故か赤坂も一緒だ。
会議室は、昨日から時間が止まっているように見えた。ボーイの姿はなく、テレサもボーイがどこにいるか分からないと言った。ノイドネットワークでも連絡が取れないという。
「ボーイが消えたわ」
フォーブルに連絡しても、彼は驚かなかった。
『分かっているよ。今朝から反応がない』
「困ったことになりました」
『総理大臣になったことかい?』
彼が笑った。
「冗談はよしてください」
選挙の話が伝わっているということは、研究室に二階堂が到着したということだ。ソフィの妨害がなかったのでホッとした。
『ボーイが消えたのは気がかりだが、良いニュースもあるよ』
「どんなニュースですか?」
『それは後のお楽しみだ』
「えー、早く教えてください」
『楽しみは最後に残しておくものだ。君はヒューマノイド工場に行ってみるといい』
「そこにボーイがいるのですか?」
『昨夜はいた。人間だって問題を抱えたら懐かしい場所に戻るだろう?』
「私は戻りません」
島は懐かしい場所だが、戻りたいとは思わない。
『まあ、そう考えない君は特別だ』
ルカは、古畑に連絡を入れて警察車両を回してもらうように頼んだ。City内の通信は回復していたが、県警本部の機器の修理が終わっているか分からない。様々な通信方法に熟知したフォーブルなら、何とかしてくれるだろうと思った。フォーブルは人使いが荒いと文句を言ったが、結局、仲立ちしてくれた。
ルカが玄関ロビーで待っていると、白と黒色のパトロールカーが目の前に停まった。
「お待たせしました」
運転席を下りた警官は桜田健だった。
「また、あなたなの」
「またはひどいですよ。市長代理、いや、総理」
「ごめんなさい。でも、どうしてそれを?」
「ついさっき、ニュースでやっていましたよ。僕の知らないところで総理大臣になっているんだから驚きましたよ」
「そうなのよ。私も驚いているの。でも、私は総理大臣じゃないですから」
「そうですよね。まだ就任式前だ」
彼は楽しそうに笑った。
呆れて、否定するのは止めた。行きたいところに行ければ、彼がどう考えようと気にしないことにした。
「今日は秘書も乗せてね」
結局、運転手のチェンジやナビゲーターの利用を求めることなく、ルカは助手席に乗り込み、相好を崩した赤坂が後部座席に座った。
「今日は運転手ができて光栄です。総理専用車として頑張ります。総理秘書さんも、よろしくです」
桜田は身体をねじると後部座席の赤坂に無邪気な笑みを振りまいた。
「ダーティーハリーもダイハードもなしですよ」
そう念を押して、ヒューマノイド工場まで行くよう頼んだ。念のため、足を踏ん張りシートに背中を押し付けた。
「はい。よろこんで!」
桜田がアクセルを踏み込んだ。タイヤがキュルキュルと鳴き、赤坂がヘッドレストに頭をぶつけて呻き声を上げた。
赤色灯を点滅させるパトロールカーは橋を渡り、大通りに出るとすぐにワゴン車を抜いた。〝nerima〟ナンバーの古いワゴン車だ。
「アッ!」
ルカは振り返った。二階堂が運転する車は、F-セントラルホテルの方向に曲がって消えた。
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