第22話

 市庁舎を通り過ぎた強襲ドローンは10キロ先で旋回し、再び上空に現れた。その頃には地面に届いた電磁パルス・ボムの機能も止まっていた。


 強襲ドローンはハイパワーイオンエンジンを止め、八つのプロペラだけで忍び寄った。


『民間周波数帯、通信電波ナシ。市庁舎に光源ナシ、電磁パルス効果を確認。着陸目標地点、人間並びにメタルコマンダー、……ヘリポートにメタルコマンダー1体を認めるも活動を認めず』


 操縦士からの報告がある。


「左舷、異常ナシ」


「右舷、異常ナシ」


 搭乗員はそれぞれの席の窓から外を見ていた。


「オールクリア、着陸せよ。着陸後、広瀬2曹はメタルコマンダーの機能停止を確認」


 指揮官の青山中尉が命じる。


「了解」


 広瀬の野太い返事がある。


「各員、戦闘準備」


 全員がフルフェイスのヘルメットを装着する。それは兵士の頭部を守るだけでなく、水中では酸素を補給するような生命維持装置でもあり、電子部品の塊であって、通信はもちろん簡易的なレーダー機能と暗視装置を内蔵している。ヘルメットと連動した携帯タイプのロケット弾を自分の想像した場所へ誘導するコントローラーでもあった。


 機体が高度を下げて市庁舎の屋上のヘリポートに着陸。胴体左右の扉が開く。青山たちは武器を手に、駆けるようにして降りて散開する。


 特殊部隊の靴は足音を殺していた。高機能の軍靴は、隠密行動時には逆位相の音波を出して音を消し、水上や雪上、沼地での戦闘では圧縮空気を放出して雪や泥に足を取られることなく移動することができた。固い床の上なら、足を動かさなくとも時速30キロ程度のスピードで移動することが出来る。空気の流れを逆にすれば、垂直な壁や天井をヤモリのように移動することも出来た。それらの機能はメタルコマンダーの足と同等だが、エネルギーには限界があって持続できるのは40分ほどだった。


 広瀬がメタルコマンダーの装甲も焼くプラズマ銃を構え、滑るように移動してヘリポートの端に転がっているメタルコマンダーに近づいた。彼はその頭を蹴飛ばし、機能が停止していることを確認する。


『異常ナシ』『異常ナシ』……降り立った八人分の報告が交わされる。


「フォーメーション・ワン、井上1曹」


 青山は右手で出入り口を指した。


『了解』


 井上が先頭になって進む。


 特殊部隊員は建物内に入る扉に取りついた。電子パルス・ボムの効果で電子錠は死んでいる。彼らは難なく扉を開けて内部に入った。


「ちょろいもんだ」


 兵士たちはヘルメットの暗視装置を使って、非常階段を音もなく駆け下りた。

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