第18話
――トントントン!……強めのノックがある。
李が返事をする前にドアが開き、ひきつった笑みをたたえた青蘭が飛び込んできた。
「安倍大臣!……何ですか?」
無礼をとがめる言葉はのみ込んだ。
「李大臣、軍の中央管制システムをハッキングしたハッカーを確認しました。外部から侵入の跡がないはずです。中央政府の基幹システムの中にいました」
「どういうことです?」
李には彼女の話が理解できない。
「どういうことだと思います?」
彼女は意味ありげに、口角を上げて匂わせた。
「さあ?」
首を傾げると、彼女が得意げに話し始めた。
「内務省が各Cityに貸し出している秘書プログラムの一つです。F-Cityの秘書プログラムで、向こうでは〝フィロ〟と呼ばれています。それがハッキングをしていました」
「何だと!」
李は記憶をまさぐった。秘書プログラムは自己学習機能を備えたCity行政の支援プログラムだ。建前は各Cityへの支援にあったが、秘書プログラムのアドバイスは中央政府の意に沿うように設計されている。中央政府にとっては各Cityの経営状況を掌握するための情報収集システムでもあった。
「内務省でつくった秘書プログラムが、どうして国軍のシステムに介入できたのだ?」
李は疑問を口にしたが、政治家の青蘭に正解を期待してはいなかった。
「自動学習機能が屈折したパーソナリティーを育てたのではないでしょうか?」
「パーソナリティー?」
「AIは接した情報、使用者によって様々な資質を帯びるそうです」
「フム、……歴代のF-Cityの市長は、反中央政府的人物だったということだな?」
「そういうことです。地方のために良かれと提供していたにもかかわらず、……飼い犬に手を噛まれた、というところです。オペレーターによると、35年も前に作られたプログラムのため、技術的に未熟だったのだろうということです。使用者である市長に従順すぎたのでしょう」
「未熟な技術に
「はい。命令書がどうのこうのと抵抗されたのですが、司馬総理の命をもって、内務省に削除させました……」
彼女が唇を曲げた。嫌らしい笑い顔だった。
「……劉大臣に貸しができましたね」
「そうしたことより……」実際は彼女の言う通りだったが、喜色が顔に出るのは抑えた。「……もう浜口市長は手足を失ったも同然ということだな」
「奪われたメタルコマンダーの件はありますが、こちらは同等以上の戦力です。中央管制システムの再インストールも開始しています。あと1時間ほどで完全復旧します」
彼女は陽気に笑った。
「復旧次第、部隊を向かわせるのだな?……ああ、それと目標を加えよう。劉大臣から聞いていると思うが、地下の核燃料保管施設も制圧してほしい。万が一ということもある」
李は、青蘭に頼んだ。
「そんな物があったのですか。……部隊の力を分散することになりますが……。まぁ、いいでしょう」
「浜口が核施設のことを持ち出した以上、已むを得ない。それも重要な施設だ。資料はエネルギー省から取り寄せてくれ。……それから、戦力が足りないなら、北海道のSP-Cityの駐留部隊も出せばいい。総理には私から伝える」
「我が軍の特殊部隊は優秀です。F-Cityごときを制圧するのに増援は不要です」
彼女は笑って李の執務室を出て行った。
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