第12話

 浜口を乗せた車が大きな交差点にさし掛かる。そこを左折すればF-チャイルドセンターのある宝島だ。


 車はそこを直進する。交差点を通過する際には、数百メートル離れた場所に防空ミサイル施設の明かりが見えた。


「フィロ、メタルコマンダーの他に武器はないか?」


 浜口は中央政府に対抗する術を必死に考えていた。


『メタルコマンダー以外にF-Cityにある武器といえば、地対空ミサイルと武装警官の自動小銃、拳銃、電撃銃、ショッピングモールの在庫にあるボーガン、サバイバルナイフ、登山ナイフ、包丁……』


「すまない。そういうものではなく、中央政府との交渉材料になる武器、いや、材料だ。こちらの強みでなくていい。ゴシップでもなんでも、向こうの弱点になるものを知りたい」


『そういうことでしたら、核はいかがでしょう?』


「カク?……どういうことだ?」


『F-Cityの地下には、放射性廃棄物を封入したキャスクが3万体、保管されています。それらを核兵器に転用すると脅かすのはいかがでしょうか? 核兵器は無理でも、いわゆるはすぐにでも製造可能です』


「なんだと!」


 思わず飛び上がった浜口は、車の天井に頭をぶつけた。


「そんなものがあるのか? 誰からも聞いてないぞ」


『最高機密事項に指定されていますので、知っているのはエネルギー省と森羅産業の一部の者のみです。それに関する議論は行われたことがなく、エネルギー省の事務次官の引き継ぎ事項に記載されているのみです』


「中央政府の大臣も知らないのか?」


『70年前に最高秘密事項に指定されて以降、大臣の引き継ぎ事項からも削除されていると認識しています』


「劉大臣は知っていたんじゃないか? あらゆる手段で対抗すると言った時に顔色が変わったのは、そのせいだろう」


『劉大臣はエネルギー省事務次官経験者です。知っていても不思議ではありません』


「なるほど。それで、Cityのどこに保管されているんだ?」


『市庁舎の地下35メートルからヒューマノイド工場地下にかけての約24キロメートル、幅50メートルの地下水脈が保管場です。搬入口はF-国際港になります』


「この真下じゃないか。そんなに大きいのか……」


 浜口はヘッドライトが照らす先を見つめた。暗闇の先には一本の道路が延びているだけだ。それに相当する地下施設があるというのだから驚かないはずがなかった。長大な地下商店街を想像した。T-Cityを訪ねた時に見た景色だ。


『未使用核燃料及び使用済み核燃料、高濃度放射性廃棄物のキャスクが3万体ですから、その程度の広さは妥当と判断します』


「昔の核は、てっきり地層処分したのだと思っていたよ」


『公式には安定地層に仮処分したと発表されていますが、地質学会が国土内の地層が安定していないと発表したために、地層処分は断念されています』


「なるほど。それで水脈に沿って細長い形状をしているのだな。しかし、そんなに重要なことが引き継がれていないとは、中央政府の措置にもあきれるな」


『管理は70年前の閣議で森羅産業に移管されています』


「森羅産業がF-Cityの工事を一括受注することになったのは、そういう理由だったのだな。さぞや高額な管理費用が払われているのだろう」


 浜口は呆れた。


『メディア対応のため正式な管理費用の支払いはありません。軍が発注する武器の3%が充てられていると推測されます』


「全く役人のやることといったら姑息だな。でも、フィロはどうして核のことを知っている?」


『ノイドネットワークで得たものです』


「ノイドネットワーク?」


『AIやヒューマノイドの、意見交換場のようなものです』


「そこの誰が核の情報を持っていたんだい?」


『City地下の核管理施設はヒューマノイドが管理しています。彼らから情報を得ました。……その存在はノイドネットワーク内では公然の秘密となっています』


「なんてことだ。……国のトップにいる者たちでも知らないことを、君らは知っているのだな」


『交渉材料として、十分な材料だと考えます』


「ああ、確かに」


 あまりにも重大な事実を前に、浜口の思考が鈍った。考えがまとまらない。


『では、政府に通信をつなぎます』


「待ってくれ」


『何か問題でも?』


「少し考えさせてくれ。工場についてから、出来たら、地下保管場を見てから答えをだしたい」


『承知しました。結論をお待ちしています』


 その時、正面に長大な壁とゲートが現れた。森羅産業の工場を取り巻く巨大な壁だ。

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